運動後の「クールダウン」は必要なのか?【ナラティブレビュー】論文

トレーニング後や競技後の【クールダウン】の話題です。
競技の現場では、練習後に「10分は動け!」「はやく流してこい!」「乳酸を散らせ!」
といった言葉を聞くことがあります。
どのような効果があるのでしょうか?意味はあるのでしょうか?

目次

論文紹介

題名:運動後のクールダウンって必要なの?

Do We Need a Cool-Down After Exercise? A Narrative Review of the Psychophysiological Effects and the Effects on Performance, Injuries and the Long-Term Adaptive Response
著者:Bas Van Hoorenら
公開日:2018年4月16日
https://link.springer.com/article/10.1007/s40279-018-0916-2

内容:多くの人がクールダウンには効果があると思い込んでいますが、実際はどうなのかを調査します。

「アクティブ クールダウン」(中強度以下で運動)と「パッシブ クールダウン」(運動せず、じっとしている。マッサージやアイシングなども含まれる)を比較した研究のみを取り上げる。

※「アクティブクールダウン」が与えた影響を以下に述べていきます。

結果①:アクティブクールダウンには、いくつかの利点がある。けれど、回復という目的には大した効果はない!

①同日のパフォーマンス(4〜4.5時間後の運動への効果)

アクティブクールダウンは効果なし。むしろ、パフォーマンスが若干低下したケースも見られた。

②翌日のパフォーマンス(14〜72時間後の運動への効果)

アクティブクールダウンは、「効果あり」「効果なし」「むしろ有害」
この3種類の報告があった。
アクティブクールダウンの方法や被験者の運動歴、それぞれの思考&好みが影響しているのではないかと結論づけています。

結果②:【パフォーマンス回復を目的としない】トレーニング後のアクティブクールダウンの生理的な効果

1.代謝産物の除去

アクティブクールダウンは、パッシブに比べて素早く
乳酸値・pH値を安静状態に近づけます。

アクティブでもパッシブでも、乳酸値は20分後・pH値は80分後には同様になると報告されています。
つまり、アクティブクールダウンが回復と直接的に結びつくわけではありません。

2.遅発性の筋肉痛(DOMS)

アクティブクールダウンによる効果は見られなかった。

筋肉痛(DOMS)からの回復に関する記事

3.筋肉損傷マーカー

血清クレアチンキナーゼ・乳酸デヒドロゲナーゼ・ミオグロビンの濃度に対して、
アクティブクールダウンにより、わずかに回復傾向にあるとされる報告もあったが、
有意差なし。

4.神経筋の機能と収縮性能

有意差なし。

5.筋肉の剛性と関節可動域

良くも悪くも、影響なし。

6.筋肉グリコーゲンの回復

アクティブクールダウンは、筋肉グリコーゲン回復を妨げる可能性が指摘された。

7.免疫システムの回復

高強度の運動後は、免疫システム低下が一時的に見られる。
アクティブクールダウンは、この回復に関与するかを調査した論文はいくつかあったが、有意差は見られなかった。

8.心肺機能

アクティブクールダウンは、心拍数と呼吸数の安定化が早まる可能性が示唆された。

9.発汗と体温調節

アクティブもパッシブも、差はなし。

10.ホルモン濃度

トレーニング後、アクティブクールダウンもパッシブクールダウンも
運動後30分の測定値では、差がなかった。

11.気分(メンタル面)

有意な効果は認められなかった。
しかし、多くの人が「アクティブクールダウン」の効果を信じているため
そのような人に対しては、プラセボ効果の可能性を否定できません。

心のリラックス・トレーニング仲間との社交の場・トレーニングの振り返りとして活用を目的としても良いでしょう。

12.怪我や傷害の予防

アクティブクールダウンが、「ケガ故障を予防するか」に関する研究が少なかった。
一般的には、ケガ故障への発生率には関与しないとされる。

13.長期的な適応反応

「アイシング」や「抗炎症薬」や「抗酸化物質の慢性的な摂取」は中長期的に、トレーニング効果を弱める可能性が指摘されています。

では、アクティブクールダウンはどうなのか?

トレーニング効果を弱めるといった結果は認められなかった。むしろ、トレーニング後にアクティブクールダウンを実施することにより「嫌気性能力(LT値)」を高めたとされる報告もありました。

まとめ

以上のような研究結果を受けて、どのように活かしていくかは現場の人たち次第ということになります。
私は可能な限り、研究結果を知り、自身が取り組んでいる現場に応用していきたいと考えています。
全面的に採用する場合もあれば、知った上で別の方法を選択することもアリかと思いますが。

こういった、従来から慣習としてなんとなく取り組んできたものを再考する時、
「そもそも目的は何か?」を深く認識する必要があるはずです。

クールダウンは手段であって、目的ではない。

目的は、次へ向けて回復するため。怪我を予防するため。疲労を可能な限り残さないため。
一つひとつ、担当している選手の皆さんには「伝えていく作業」を大切にしていきたいものです。

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