【運動イメージが与える影響】エクスターナルフォーカス/インターナルフォーカス【論文紹介】

意識の持ち方・捉え方によって、
運動パフォーマンスが変化することがあります。

例えば、
立ち幅跳びジャンプをするとき

①自分の体(関節)の動きを意識(内的意識)
②跳ぶ目標物への意識(外的意識)

この2パターンの意識で「実際の跳んだ距離」が変わる、というコトが多く研究されています。

①内的な意識とは、Internal Focusインターナル フォーカス

②外的な意識とは、External Focusエクスターナル フォーカス

このように日本語訳されます。

運動指導者が、動作意識について教えるとき、言語による「合図」を用いることも多い。この合図は「Cue(キュー)」や「Cueing(キューイング)」とも呼ばれます。

今回の記事では、

どういった意識の持ち方が運動能力に影響するのか?という点について、研究論文を基に紹介していきます。

目次

結論まとめ

①外的な意識(External Focus)によって、多くの運動パフォーマンスが向上されている。

②内的な意識(Internal Focus)によって、ひとつの動作に集中しやすい。動作の改善や技術の体得したい場合に優れているかも。

③もともと高度なパフォーマンスを持つ人には、外野が言う外的注意も内的注意もパフォーマンス低下させる可能性が高い。

④外的な意識(External Focus)によって、筋電図(EMG)の活動が低下する傾向にある。

⑤外的な意識(External Focus)によって、筋持久力パフォーマンスが高まる可能性が高い。


論文紹介

ジャンプ力(小児)の実験

The Influence of External Focus Instruction Characteristics on Children’s Motor Performance.
著者:Marchant DC
公開日:2018年9月26日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30257136

・子どもが実験の参加者

<実験①>

・44名(男性23名/女性21名)平均年齢7歳

・3パターンのキューイングで比較

①コントーロール-キュー
“全力でジャンプ”とだけ

②内的キュー
“ジャンプのとき、できるだけ早く足を跳ね上げること”

③外的キュー
“遠くの目標物にできるだけ近づくようにジャンプすること”

✅「外的キュー(意識注意)」によってジャンプの到達点が向上しました。

<実験②>

・54名(男性24名/女性30名)平均年齢8歳

・4パターンのキューイングで比較

①コントロール指示
“全力でジャンプ”

②内的指示
“脚をできるだけ素早く伸ばすことを意識して”

③外的指示(近位)
“スタートラインから出来るだけ遠くにジャンプ”

④外的指示(遠位)
“遠くに置いてある目標物を目指してジャンプ”

✅外的指示(遠位)によって、ジャンプ距離が伸びる傾向にあることが分かりました。


ジャンプ力(大学生)の実験

Standing Long Jump Performance With an External Focus of Attention Is Improved as a Result of a More Effective Projection Angle
著者:Ducharme, Scott Wら
公開日:2016年1月
https://journals.lww.com/nsca-jscr/fulltext/2016/01000/Standing_Long_Jump_Performance_With_an_External.32.aspx

・大学生(平均年齢21歳)の21名(男性10名/女性11名)が実験に参加しました。

・参加者は普段トレーニングを受けていない人たち。

①内的キュー
“できるだけ素早く脚を伸ばすようにジャンプ”

②外的キュー
“遠くにある目標物にできるだけ近づけるようにジャンプ”

✅外的フォーカスによってジャンプ力の向上が見られました。


ドロップジャンプでの指導キューイングを調べた実験

External Cueing Influences Drop Jump Performance in Trained Young Soccer Players
著者:Jon L Oliverら
公開日:2021年6月1日
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30676388/

・14名の若年(平均年齢11歳)サッカー選手が実験に参加

・4種類の外的フォーカス指示(キューイング)で、ドロップジャンプの運動パフォーマンスについて調査。

①コントロール-キュー
“両手は腰に、片足でボックスを踏み切る、両足で着地、できるだけ高くジャンプ”

②コンタクト-キュー
“ドロップ後、床についている時間をできるだけ短くジャンプ”

③ハイ-キュー
“ドロップしてからのジャンプではできるだけ高くジャンプ”

④クワイエット-キュー
“ドロップ後、床につくときにできるだけ静かに、その後できるだけ高くジャンプ”

✅ハイ-キューでは、ドロップジャンプが最も高い傾向にあった。

✅コンタクト-キューでは、ドロップ後の床接地時間が最も短い傾向にあった。

✅クワイエット-キューでは、ドロップ後のインパクトピークが最も低い傾向にあった。


ジャンプ力効果と筋電図(EMG)を調べた実験

Increased jump height and reduced EMG activity with an external focus.
著者:Wulf Gら
公開日:2010年4月21日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20409600

・外的な意識によって、「ジャンプパフォーマンス」の向上が見られました。

・さらには、筋電図(EMG)を検出した結果(前脛骨筋/大腿二頭筋/外側広筋/大腿直筋/腓腹筋)

✅「外的意識」では、EMGが低下していたことが分かりました。


アームカールでの筋電図(EMG)を調査

EMG activity as a function of the performer’s focus of attention.
著者:Vance Jら
公開日:2004年12月
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15695233

・アームカール運動中の上腕二頭筋の筋電図を調査しました。

・外的フォーカス
“握っているバーの動きへ”注意を向けるように

・内的フォーカス
“自分の腕の動きへ”注意を向けるように

✅外的フォーカスの方が「アームカール運動の動作が速くなる」という傾向がありました。

✅外的フォーカスで、筋電図(EMG)の低下することが分かりました。


ランニング(走る)パフォーマンスの実験

Thinking Outside the Block: External Focus of Attention Improves Reaction Times and Movement Preparation Times in Collegiate Track Sprinters
著者:Attila J. Kovacsら
公開日:2018年10月19日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6316484/

・12名(男性4名/女性8名)の大学生(平均年齢20歳)陸上短距離アスリートが実験に参加しました。

・トラックスプリントでのスタート反応時間を比較する実験でした。

①外的フォーカス
“スターティングブロックを押すことに集中”

②内的フォーカス
“膝を伸ばすことに集中”

③Noフォーカス
“意識の指示は無し”

✅外的フォーカスで明らかにリアクションタイムが速かった。


Experience level influences the effect of attentional focus on sprint performance.
著者:Winkelman NCら
公開日:2017年2月6日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28182969

<実験①>

・17名(男性のみ)大学生サッカー選手が実験に参加しました。

・10m最大努力の短距離走を実施。

①外的フォーカス群
“爆発的に、地面を後ろへ!”

②内的フォーカス群
“自分の脚をできるだけ爆発的に動かして!”

③コントロール群
“全力で頑張ってください!”

この3つでパフォーマンスに変化があるのかを比較しました。

✅内的フォーカスでは有意に「遅かった」

✅外的フォーカスと指示なしでは、同様のタイムでした。


<実験②>

・13名(男性7名/女性6名)平均年齢28歳の経験豊富な陸上短距離選手が実験に参加しました。

・実験手順と方法は上記の「実験①」と同様に実施されました。

①外的フォーカス群
“爆発的に、地面を後ろへ!”

②内的フォーカス群
“自分の脚をできるだけ爆発的に動かして!”

③コントロール群
“全力で頑張ってください!”

✅これら3つで、タイムの違いは見られませんでした。


水泳選手のパフォーマンス実験

Does the Attentional Focus Adopted by Swimmers Affect Their Performance?
著者:Isabelle Stoateら
公開日:2011年3月1日
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1260/1747-9541.6.1.99

※2019年12月6日現在、フルテキストは閲覧できておりません。スミマセン!
※2021年10月14日現在、フルテキストを拝見しました!

・水泳選手が実験に参加。

平均年齢17.5歳。30人の水泳選手(男性11人/女性19人)が実験に参加。週に平均8.5回の競技トレーニングを実施していました。

・クロール泳で25ヤードを3回泳ぎました。

①外部フォーカス群
“「水」を押すことを意識”

②内部フォーカス群
“「手」を引くことを意識”

③コントロール群
“指示なし”

この3回での比較。

✅内的フォーカス意識をした場合が明らかに「遅かった」

✅外的フォーカスと指示なしでは、同様のタイムとなりました。

✅すでに高いスキルを持っている選手では、外的フォーカスの指示も不要なのではないかと締めくくられていました。


バランスパフォーマンスの実験

Effects of external focus of attention on balance: a short review
著者:Sun Hee Park
公開日:2015年12月28日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4713821/

・バランスに関する、18の研究論文を調査。

・そのうち15の論文が「外的な意識や注意」によって効果が見られたとされました。

・2つの論文では、外的・内的に効果の差は無かったとされた。

・残り1つの論文では、トップレベルのアクロバットパフォーマーでの実験でした。

✅この実験では、外的・内的の意識注意ではパフォーマンスの向上が見られず

✅「指示なし」が一番効果的であるという結論となりました。

筋持久力に対する意識の効果を調査したメタ分析論文

Effects of Attentional Focus on Muscular Endurance: A Meta-Analysis
著者:Jozo Grgic and Pavle Mikulic
公開日:2021年12月22日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8751186/

・計5件の論文がレビューに含まれました。

・筋持久力の測定はレジスタンストレーニングにて比較されていました。

✅インターナルフォーカスと比較して、エクスターナルフォーカスを用いることによって筋持久力が向上することが認められた。


私見まとめ

今記事をまとめていて、ヒシヒシと感じたことは

意識の向け方の種類に関わらず「言葉や意識やイメージが、少なからず運動パフォーマンスへ影響を少なからず与えているんだな」という、きわめて当たり前のことを強く再認識させられました。

このような「意識の向け方」や「指導者からの指示の内容および表現」という視点は、悪く捉えるとパフォーマンス低下を招く恐れもあります。

🔽筋力トレーニング時に部分的に強く筋肉を収縮させたい場面⇨内的意識インターナルフォーカス

🔽(上記以外のその他ほとんどの)パフォーマンスを発揮する場面⇨外的意識エクスターナルフォーカス

※参考記事:内的意識(インターナルフォーカス)の効果効用について

以上のように考えています。

もちろん、どちらか一方だけということではなく、どちらも行き来をしながら、螺旋階段的に向上させていきたいものです。

競技動作に(筋トレ的な)負荷を与えることは悪なのか?

いつも書いているような気がしますが、「良し悪しは相対的なもの」だと考えています。

つまり、トレーニングの「良し悪し」は、目的に対して存在する、ということです。

さらにそのトレーニングの良し悪しは、個人の才能や環境による影響が大きいですから、あなたにとっても同じであるとは限りません。

ですので、【競技動作に筋トレ的な負荷を与えることは悪か?】と問われたら「個人における目的・狙いによる」と答えます。

トレーニングの「良し悪し」ではなく、「優先度」という視点を

どのようなトレーニングを取り入れるにしても、実施する側(つまり選手)の認識や情報リテラシーが高度であることがとっても大切だと思います。

「良いトレーニングか?悪いトレーニングか?」というふうに考えてしまうと、思考が停止しやすいようです。

なので、「まずは課題を洗い出す」という思考作業をすることがオススメです。抽象的なものから具体的なものまで。

そうすると、悪いと判断したトレーニングを排除するのではなく、「トレーニングの優先度」という視点でトレーニングを選択していけるのではないかと。

トレーニングを実施する側(つまり選手)が初心者の場合は、認識が未成熟なケースが多いと思われます。

そんなときの指導者との出会いや巡り合わせは、とても重要かもしれませんね。

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