競泳100m種目に必要な能力は、スピードか?持久力か?

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水泳の100m種目では、おおよそ60秒くらいの運動時間となります。そのためには持久力を鍛えるべきか、それともスピードを鍛えるべきか?

多くの選手や指導者にとって、頭を悩ませているテーマの一つかも。

水泳の100mは、純粋なスプリント種目とは異なり、終盤にかけて急激に体力を消耗する「持久的スプリント」とも言える競技。そのため、スタート直後の爆発的なスプリント能力だけでは戦えず、後半をどう耐え抜くかが勝負の分かれ目になることもあるね。
しかし、スピードがなければタイムを大きく伸ばすことも難しい。
だからこそ、スプリント能力と持久力、どちらを伸ばすべきなのかという疑問が、世代やレベルを問わず繰り返し問われ続けているように感じます。

今記事では、陸上競技の400m走での研究から示唆されている「考え方」を参考にし、水泳競技の100mに置き換えてイメージしてみたいと思います。

目次

研究論文の紹介

題名:Performance prediction and athlete categorization using the anaerobic speed reserve in 400m sprinters
著者:Ludwig Rappeltら
公開日:2025年3月26日
https://www.jsams.org/article/S1440-2440(25)00093-3/fulltext

論文結論

エリート400m走のパフォーマンスを予測する主要因は「最大スプリント速度(MSS)」であることが分かりました。一方で、血中乳酸濃度4mmol/Lでの走速度や最大酸素摂取量(V̇O2max)は、400m走のタイムとの関連が弱いことが示されました。

研究内容

▶︎参加者
ドイツの国内レベルおよびエリートレベルの400mスプリンター18名が、この横断的研究に参加。そのうち12名は、400m、400mハードル、または4×400mリレーの種目で、ユースおよびシニアの国際大会に出場した経験あり。

▶︎実験内容
横断的観察研究として設計され、2024年室内シーズンの準備期間中に、アスリートの単一日にわたってテストが実施されました。各自のウォームアップルーチンを完了した後、最大スプリント速度(MSS)を測定するために、60mの全力スプリントを3回実施。十分な休息期間(3時間以上)を経て、参加者は血中乳酸濃度が4 mmol/Lに達する速度(vL4)を測定するための漸増ステップテストを行いました。さらに2時間以上の休息後、最大酸素摂取量(V̇O2max)および最大有酸素速度(MAS)を測定するための漸増ランプテストを疲労困憊まで実施。

私見まとめ

速く泳ぐ・走るために、「持久力」と「スピード」、どちらを優先すべきなのか?

この問いはシンプルに見えるけど、私たちの「トレーニング観」が問われています。

今記事で引用した研究では、最大スプリント速度が、エリート選手の400m走パフォーマンスを左右する要因であることが示されました。

ついつい、「最後まで失速しない=後半のびる」という現象に注目し、持久力や粘りに頼りたくなります。
しかしその粘りも、そもそもどれだけの「スプリント能力があるか」という土台が重要になります。
もっと言えば、最大スプリント速度を高めることができれば、失速してもなお速い。そんな戦略を選ぶこともできるよね。

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ここで大切なのは、単にスピードを鍛えるという短絡的な理解ではなく、「なぜそのスプリント能力が重要なのか」という構造的な視点を持つこと。

最大スピードの向上には、神経系の発達、筋力、動作効率といった、総合的な身体能力の底上げが必要です。
それは、選手の持つポテンシャル全体に手を加えるということ。
つまり、中長期的な記録向上は「技術の問題」だけではなく、「身体の使い方と設計そのものの見直し」から始まるのです。

私たちがすべきことは、単に「持久力を鍛える」か「スピードを伸ばす」かの二項対立で考えるのではなく、「選手としての可能性をどう引き出し、設計し直すか」という問いに立ち返ることなのかも。

スタートラインに立つ前に積み重ねた「選択の質」を、より良くしていきたい気持ち。

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