「自己効力感」の正体について。できた!をたくさん上書き保存していこう

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今記事では「自己効力感(セルフエフィカシー)」について書いていきます。

この内容でブログを書き残しておこうと考えたのは、最近見た1本の映画「インビクタス/負けざる者たち」がキッカケ。

南アフリカにおいて、初の黒人大統領となったネルソン・マンデラ氏。
マンデラ氏が、大統領になる前の27年間の投獄中に心の支えとした詩「インビクタス」。
その詩の作者は、イギリスの詩人ウィリアム・アーネスト・ヘンリー氏。
「インビクタス」は、ラテン語で”不屈の精神”とか”負けない者”を意味するそう。

この映画の中で、マンデラ氏が紹介した詩の中の一節↓

I am the master of my fate(私が我が運命の支配者)
I am the captain of my soul(私が我が魂の指揮官)

「できる」と信じることが、行動する力に

私たちは日々、さまざまな場面で選択と行動を迫られてる。
挑戦するか、諦めるか。
続けるか、やめるか。
その判断の背後にあるのは、「自分にはできる」と思えているかどうか。

つまり、自己効力感(Self-Efficacy)という心理的な力が大きな要因となっているんじゃないかと考えられてます。

スポーツの世界では、同じ練習量と内容をこなしても、出てくる結果が異なります。
その結果を分ける要因の一つが、「自分には乗り越えられる」という内なる確信みたいなものである自己効力感、これの大小が大切だな〜と感じることが多い。

本記事では、「自己効力感」という概念の歴史から、実際の研究、そしてトレーニングやリハビリの現場における実践的な内容を紹介していきます。みなさんが、もっと知りたい!と思えるきっかけになれたら良いな。


目次

「自己効力感」の歴史

「自己効力感(Self-Efficacy)」という考え方は、カナダ出身の心理学者アルバート・バンデューラ博士によって提唱されたと言われています。

彼の研究は、1970年代に発表された「社会的学習理論(Social Learning Theory)」、後に「社会的認知理論(Social Cognitive Theory)」と改称されることになる、人間行動の理解を深めるための画期的な理論体系の中に位置づけられています。

この理論が生まれた背景には、当時の行動主義心理学(人間の行動は刺激と反応の連鎖で説明できるという考え方)や、初期の認知心理学(人間の思考プロセスを重視する考え方)の限界がありました。バンデューラ博士は、人間は単に環境からの刺激に反応するだけの存在ではなく、「自分自身の思考や信念、そして他者との相互作用を通じて、自らの行動や環境を積極的に形成していく能力を持っている」と考えたそう。

その中で、重要な概念として浮上したのが「自己効力感」です。博士は、人間が何らかの行動を起こすかどうか、どれだけ努力するか、どれだけ困難に耐えるかは、その人が「自分にはそれができる」とどれだけ信じているかによって大きく左右されると主張しました。この主張は、1990年代以降、心理学だけでなく、教育、健康、ビジネス、スポーツなど、多岐にわたる分野で爆発的に研究が進むきっかけとなりました。

参考(Sandra K M Tsangら:2012

自己効力感の定義

自己効力感とは、与えられた結果を達成するために必要な行動指針を組織化し、実行する自分の能力に関する信念のことである。
(Self-efficacy refers to one’s beliefs in one’s capability to organize and execute the courses of action required to achieve given results.)
Sandra K M Tsangら:2012

シンプルに言えば、「自分にはできる」という自己への信頼感。
この信頼感が「私たちの感情、思考、そして行動の根幹をなす」とバンデューラ博士は強調しています。

そして、この自己効力感を形成し、維持していくための5つの主要な源泉が挙げられています。これらは、バンデューラ博士が長年の研究を通じて特定した、自己効力感を育む上で不可欠な要素であると述べられています↓

1. 習得経験(成功体験): 実際に目標を達成したり、困難を乗り越えたりした過去の経験は、最も強力な自己効力感の源となります。小さな「できた!」の積み重ねが、大きな自信へと繋がります。
2. 代理経験(他者の成功の観察): 自分と似たような能力を持つ人が成功する姿を見ることで、「自分にもできるかもしれない」という可能性を感じることができます。
3. 社会的説得(励ましや肯定的な言葉): 周囲からの「君ならできる」という言葉や、適切なフィードバックは、自己効力感を高める助けになります。ただし、その言葉が相手の真の能力に見合っていることが重要です。
4. 生理学的・感情的状態: 心拍数や呼吸、身体的な準備状態、そして不安や興奮といった感情が、自己効力感に直接影響を与えます。心身が整っている状態は、「できる」という感覚を強めます。
5. 想像的経験(成功のイメージ): 実際に行動を起こす前に、目標を達成している自分の姿を頭の中で具体的にイメージすること。これが、実際のパフォーマンスにも良い影響を与えます。
Sandra K M Tsangら:2012

自己効力感(セルフエフィカシー)についての研究論文

身体的なトレーニングによって自己効力感は高められるかも

✅本研究は、バーベルを用いたレジスタンストレーニングが、参加者の自己効力感や達成感、内発的動機づけを高め、筋力や持久力の向上といった身体的効果に加え、心理的な成長にも寄与することを示した。

Vanessa M Martinez Kercherら:2024

ケガからの復帰(リハビリテーション)と自己効力感について

リハビリテーションにおいて「自己効力感」は非常に重要な要素です。自己効力感が高い人ほど、治療やリハビリに積極的に取り組み、継続的な努力を続ける傾向があります。

✅スポーツ外傷後のリハビリテーションにおいて、「目標設定」を取り入れた介入が自己効力感の向上に有効であるという点です。2つの質の高いランダム化比較試験により、目標設定を行った群は、標準的なリハビリ群に比べて、自己効力感が有意に向上しました。特に、患者自身が重要だと感じる目標を主体的に設定し、段階的に達成していくプロセスが、リハビリへの積極的な参加と心理的回復を促進しました。

Caitlin Brinkmanら:2019

慢性腰痛と自己効力感の関係性

✅本研究は、間欠的な腰痛(LBP)を抱える人々を対象に2年間追跡調査を行い、社会的および仕事上のストレスが痛みの慢性化に影響することを明らかにした。痛みの強さや障害に影響するストレス要因は経過時間や評価項目によって異なる一方、自己効力感は長期的にストレスの悪影響を緩和する可能性がある個人内の資源として注目された。特に、痛みに伴う障害の予測において自己効力感の高さが保護的に働くことが示された。慢性腰痛の予防と治療には、ストレスの種類を区別し、自己効力感の向上を促す支援が重要である。

Anne-Katrin Puschmannら:2020


私見まとめ

「できる」と思えるような環境を、どう育てていくか。

トレーニングや指導の現場で、私は多くのアスリートの「変化の瞬間」に立ち会っています。その中で感じる成長のきっかけは“小手先のスキル”ではなく、アスリートが“自身を信じる力”から始まるということ。

どれだけ優れたメニューを組んでも、「自分には無理」と思っている人は力を出しきれませんよね。
逆に、「やってみよう」と思えるだけで、姿勢が変わり、パフォーマンスも自然と風向きが変わっていく。

だからこそ、トレーニング指導者として私たちが担うべき役割は、単に身体を鍛えることだけではない。
小さな成功を積んでもらったり、できた体験を共有したり、安心して挑戦できる空気をつくること。きっとそれが結果として、選手やクライアントの自己効力感を育て、その人の人生そのものを前向きに変えていくことに繋がっていくはず。

「できる」と思えると、世界の見え方が変わりやすいよね。得られた知識をどう活かしていくか。おせっかいながら、いくつかの視点を書き示して終わりにしたいと思います。

1. 小さな「できた!」を意図的に積み重ねる

もしあなたが今、大きな壁を感じているのなら、まずはその壁を構成する最小単位の「できること」を見つけてほしい。そして、小さなできることを達成していく。例えば、新しいフォームを習得する際、一連の流れ全てを完璧にしようとするのではなく、「まずはこの指先の感覚だけ意識する」「この足の着地だけ成功させる」といった感じ。その小さな「できた!」を自分でしっかり認識し、肯定することで、次のステップへの自信が自然と湧いてくるはず。スモールステップだね。

2. ロールモデルを見つけて、自分との共通点を探す

「あの人みたいになりたい」という目標を持つことは、非常に有効。ただし、単に憧れるだけでなく「あの人と自分は、どこが共通しているだろう?」「あの人だったら、どのように動くかな?」と考えてみてほしい。体格、トレーニング、努力の姿勢、性格など、どんな些細なことでも。共通点を見つけることで、「あの人にできたなら、自分にも可能性はある」という感覚が、よりリアルに、そして個人的なものとして感じられるはずだよ。

3. 自分の声と、周りの声に耳を傾ける

私たちは、無意識のうちに自分に否定的な言葉を投げかけてしまったりしがち。その「心の声」に気づき、「まだできる」「試してみよう」とかポジティブな言葉へと意識的に切り替える練習をしてみよう。また、信頼できるコーチや仲間からの励ましは、間違いなく力になる。その人たちから言われる「できる」は、あなたの努力や可能性を見てくれているから聞き入れやすい。そういった言葉を素直に受け取り、自分の中に落とし込んでみてね。

4. 心と体を整える習慣を大切にする

自己効力感は、私たちの生理的・感情的状態に大きく左右されがち。睡眠不足や過度なストレスは、パフォーマンスだけでなく、「できる」という自己効力感そのものを低下させられちゃう。質の良い睡眠、バランスの取れた食事、適切な休息。これらはトレーニングの一環として、自己効力感を育む上で不可欠。トレーニング前のリラックスや集中も、単なる準備運動以上の意味を持つと捉えてみてほしい。

5. 成功のイメージを描いてみる

実際に行動を起こす前に、目標を達成している自分の姿を頭の中で具体的に思い描いてみる。たとえば、試合で最高のパフォーマンスを発揮したあとの自分とか、練習で設定した課題をやり切った瞬間とか。達成している自分を臨場感もってイメージすることで、脳と身体はそれを「実体験」に近いものとして受け取るらしい。この刷り込みのような上書き保存は、「自分ならできる」という感覚を自然に育て、実際の行動への自信と自己効力感を高めてくれる。


きっと、自己効力感は、意識的に育み強化していくことができる力です。
もし自分自身の「できる」という感覚をさらに高めたい、アプローチをもっと深く掘り下げたいと感じられた方がいれば、いつでもご相談くださいね。

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