日本選手権に出場するようなアスリートに聞かれました。
「クラウチングスタートだとグラついちゃう…片足でのバランスを取る筋力が足りないのかな…?」
スタート台で、
「片足で体がグラつく」
「地面を蹴る感覚が不安定」
「爆発的に踏み切れない」
こういった悩みを抱える水泳選手は、けっこう多い印象です。
でも、もしかするとその原因は、「才能」や「センス」ではないかもよ。
本記事では、”トレーニングと経験の蓄積”という観点から、「スタートが苦手」について考えを巡らせていきたいと思います。
本記事で伝えたいこと
「やってきたことの差」が、できる/できないを分けているかも。
人の身体は、とても正直。
繰り返した動きに適応し、使わなかった機能は退化していく。
この「使った・使わなかった」が、長い時間をかけて運動能力の差となって現れていると考えられます。
だからこそ、「やればできる」は半分正解で、半分は戦略と環境の問題でもあるでしょう。
研究論文の紹介
題名:Only the stable survive: role of balance task difficulty on dynamic postural control in young athletes and non-athletes
著者:Thomas Muehlbauerら
公開日:2025年4月
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12006102/
論文結論
サッカー選手・水泳選手・運動習慣のない人たちの「バランスを保つ力(姿勢制御)」を比較しました。
その結果、サッカー選手は他のグループよりもバランスの難しい動きでもしっかり姿勢を保てることがわかりました。これは、サッカー特有の動き(パス、シュートなど)を日常的に繰り返していることが、バランス感覚の発達につながっていると考えられます。
一方で、サッカー選手の中でも「練習歴が長いか短いか」や「利き足かどうか」は、バランス能力に大きな違いを生みませんでした。つまり、バランス能力は練習量よりも練習の「質」や「内容」に左右される可能性があるということです。
実験内容
以下の3つのグループ、合計197名の中高生が参加しました。
- サッカー選手:64名(うち女性20名)
平均年齢:14.0歳(±1.8)/身長:166.6cm(±11.3)/体重:57.3kg(±12.5) - 水泳選手:73名(うち女性40名)
平均年齢:13.8歳(±2.7)/身長:165.8cm(±13.9)/体重:56.8kg(±14.6) - 非運動習慣者:60名(うち女性33名)
平均年齢:14.1歳(±1.1)/身長:165.2cm(±10.6)/体重:61.5kg(±15.9)
被験者は、以下の手順でバランス能力の測定を受けました:
- 身体測定:身長・体重を正確に計測
- 標準化されたウォームアップ:動的バランス運動を含む10分間の準備運動
- バランステスト:片脚立ちでのバランス能力を、6段階の難易度で測定
バランステストでは、動的バランス装置(Wobblesmart)を使用し、支持基底面を狭くしていくことで難易度を段階的に上げていきました。加えて、単純なバランス課題(片脚立ち)に加え、もう一方の脚を一定リズムで動かす二重課題も実施しました。難易度は各個人に合わせて最大レベルまで調整され、実際の運動中に起こるバランス変化に近い環境が再現されました。
私見まとめ
水泳選手の「スタートが不安」に必要なのは、”身体の言語”の引き出しを少しでも増やすこと。
水泳という競技は、地面に立つことが少ないスポーツ。
だからこそ、「地面を使う感覚」や「片足で支える動き」に対して、身体が言語を持っていない選手も多いよね。
そんな選手に、片足でのスタートやジャンプを求めても、「うまくいかない」のは当然です。
だからこそ必要なのは、やってこなかったことに対する、身体づくり。
✅ 片足の支持感覚を養う練習
✅ 地面からの反発を受け止め、跳ね返すジャンプトレーニング
✅ 上半身と下半身の“連携”を生む体幹主導の爆発的動作
重要なのは、「才能がない」と切り捨てることでも、「やればできる」と雑に励ますことでもありません。
“できる体”を、少しずつ作っていくことよ。
バランス能力は練習「量」よりも練習の「質」や「内容」に左右される可能性が高い
「苦手」な動きは、あなたの身体がまだその動きを知らないだけかもしれないね。
きちんと知って、選択して、繰り返せば、できるようになるかも。
“やればできる”ではなく、”どうやればできるか”にこだわって、あなたの課題を改善して成長を感じていこ。