アスリートや指導者の方から、たまに質問をいただく内容です。
競泳競技の現場において、「懸垂」というトレーニングは注目度が高いようです。
今記事では、
①高回数の懸垂が競技結果に繋がるのか?(懸垂で大切にすべきこと)
②ヘンテコなフォームでしか懸垂が出来ない人は、何したら良いか?
このようなことについて考えを巡らせていきたいと思います。
高回数の懸垂が、競泳競技パフォーマンスに繋がるのか?
結論から言うと、「絶対に繋がる」とは言えません。
だからといって、高回数の懸垂はダメだと否定しているわけではありません。
高回数の懸垂に継続的に取り組んで、ケガしてしまう人もいれば、大会で優勝しちゃう人もいるでしょう。
どんな取り組みでも、「得られるであろう効果」と「考えられるリスク」をある程度は認識したうえでやっていきたいものです。
「なんだか分からないけど、直感的に良さそうだからやる!」っていうギャンブル的な考えも、たまには良いかもしれませんがね…。
取り組む人の競技レベルやタイミングによっても変わるでしょう。
(参考記事:No.119 競技スポーツ【初心者と上級者】との違い)
懸垂に限らず、いわゆる「筋トレ」が競技の結果に繋がったのかどうかを測定するのは困難です。
つまり、原因と結果という因果関係では語ることが出来ないということ。
※関連記事(No.134 「休んだから速くなった?」「勝てば正解?」原因と結果の関係について考えてみよう)
しかし、因果関係が明確に分かるものだけに取り組んでいては、何も行動を起こせないことも事実でしょう。
筋トレが競泳競技に繋がったかどうかをどうやって評価したら良い?
これも良く聞かれる質問の一つです…。
筋トレやったら速くなった。
こんな感じで競技結果に直結してくれるワケではありません。
筋トレは、「競技結果に直結させるための準備」というふうに考えています。
(参考記事:No.135 ウエイトトレーニングを実施する意味について説明する際に用いる例え話【スポーツ選手と競技コーチへ】)
やっぱり、競技と筋トレを結び付けたい!
競技の練習以外に、筋トレを導入する場合、筋トレが競技に直結してほしいと考えちゃいますよね。
「筋トレは準備だ!」って言われても、続けられないよ~。
そんな場合は、競技結果に直結する要素を書き出してみて、その要素が筋トレによって向上するかどうかを検討してみる。という作業はオススメです。
「スタート」や「ターン」という要素
筋トレ(スクワット)と関係がありそうです。
(参考記事:No.165 泳ぎの練習も大切だけど、壁を蹴る練習も大切だよ【競泳レース分析】)
(参考記事:No.129 飛び込みスタートとスクワットジャンプの関係【論文紹介】)
「ストローク長」という要素
腕のストロークによってどれだけ進めたか?という視点で考えると、筋トレ(懸垂)によって向上しそうです。
また、抵抗を減らすことでストローク長を向上させられることも考えられます。それも筋トレによって姿勢維持する力を向上させれば貢献しそうです。
ヘンテコなフォームでしか懸垂できない人は、何したら良い?
インスタグラムで、以下のように紹介しました↓
トレーニング・テンポについて考えられていること
下ろす(エキセントリック)動作は、上げる(コンセントリック)動作よりも大きな筋力を発揮できる
筋肥大効果において有意差は明らかになっていないが、「速いコンセントリック収縮」と「ゆっくりエキセントリック収縮」の組み合わせが良いのではないかと考えられる
参考論文
題名:The Influence of Movement Tempo During Resistance Training on Muscular Strength and Hypertrophy Responses: A Review
著者:Michal Wilkら
公開日:2021年5月27日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC8310485/
題名:The effects of eccentric versus concentric resistance training on muscle strength and mass in healthy adults: a systematic review with meta-analysis
著者:M Roigら
公開日:2008年11月3日
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18981046/
競泳選手の筋トレは「高回数」を目指すのではなく「高出力」を目指すべし
「50m自由形タイム」と「懸垂」との関係性
<実験参加者>
■16歳~26歳までの男性水泳選手12名(平均年齢19歳、身長180cm、体重75kg)
■50m自由形タイムは、平均26秒(23~28秒)の集団
論文結論:スプリントパフォーマンスと懸垂の最高速度との関係性が見られた。
50m自由形のタイムが速い選手ほど、懸垂1回の最大速度が大きい傾向があった。
また、懸垂を限界までおこなう最大回数との関係性は認められなかった。
トレーニングで意識しておきたいこと
トレーニングによる「刺激」によって、肉体が向上します。
その刺激が、強すぎれば壊れちゃうし、弱すぎれば向上効果が得られません。
また、刺激に慣れてしまった後は、さらなる向上を望めません。
つまり、刺激を変化させていく計画も長期的には重要となります。
どうでもいい余談
ちなみに私個人的には、筋トレで「回数」をそこまで重要視していません。
狙いのあるフォームで実施していることであったり、中長期的に成長していけるようなトレーニング内容であることのほうを重要視しているつもりです。
もし仮に、競泳選手が「懸垂1000回できるぜ!だから速いんだぜ!」って発信していたとします。
「オレは今までに1000人と付き合ったぜ!」って聞こえるような感じです…。あくまで私にとっては、ですよw
たくさんの人とお付き合いすることが評価基準となるコミュニティの中にいれば、当然のように1000人という数字が高評価となるでしょう。
一方で、人数が評価基準ではなく、どれだけの幸福感を得られたか?ということで評価すべきだというコミュニティもあるかもしれません。
どんな環境やコミュニティに属していても、自分自身の価値観は自分で決められる!と思えるような強い心持ちの人もいるかもですが…。
組織運営者である指導者やコーチは、【何を大切にするか?】について、何度でも立ち止まって考えてみるべきかと思います。
だいぶヘンテコな話で終えてしまいました…。