低酸素トレーニング施設で運動するメリットは?生理学的な視点から考える

トレーニング

豊洲にあるトレーニング施設”アシックス スポーツコンプレックス”

そちらの施設の売りは「低酸素環境」です。

低酸素の環境下でトレーニングをすると、身体には何が起こるのか?どういったメリットがあるのか?

研究論文を引用し、トレーニング効果や生理学的な視点から「低酸素施設」について考えていきたいと思います。

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  1. 私見まとめ
      1. 低酸素トレーニング施設で強化する際に「気にかけたい」ポイント
        1. トレーニングによって”高めたい能力(運動強度×量)”を明確にするべし
      2. あえて高地トレーニングには行かず、低酸素トレーニング施設で鍛えるという選択
      3. トレーニング施設は「低気圧低酸素」「正常気圧低酸素」どっが効果的で優れているの?
      4. 余談
  2. 論文紹介①
    1. 論文結果:生理学的な負荷は明らかに高かったが、タイム短縮は見られなかった
    2. 論文内容:”ジュニア水泳選手”4週間(週2回)のトレーニング介入によるクロスオーバー実験
  3. 論文紹介②
    1. 論文結果:ある程度の競技歴がある被験者の400mパフォーマンスが向上しました
    2. 論文内容:”水泳経験者”6週間(週3回)の低酸素トレーニング
  4. 論文紹介③
    1. 論文結果:水泳愛好家レベルの400mパフォーマンスが向上しました
    2. 論文内容:”水泳愛好家”6週間(週3回)の低酸素トレーニング
  5. 論文紹介④
    1. 論文結果:低酸素トレーニングを取り入れたグループでは、水泳パフォーマンスが向上しました
    2. 論文内容:”水泳競技者”4週間(週10回中-2回の介入)トレーニングによる比較実験
  6. 論文紹介⑤
    1. 論文結果:低酸素環境での筋肥大トレーニングのほうがより効果的な可能性が示唆された
    2. 論文内容:”筋トレ経験者”6週間(週2回)の筋肥大トレーニングで比較実験
  7. 論文紹介⑥
    1. 論文結果:低酸素環境での筋力向上トレーニングの方がより効果的である可能性が示唆された
    2. 論文内容:”筋トレ経験者”7週間(週3回)の筋力向上トレーニングで比較実験
  8. 論文紹介⑦
    1. 論文結果:低酸素トレーニングは、体組成の改善にも効果的である可能性が示唆された
    2. 論文内容:”筋トレ初心者”7週間(週3回)の筋トレで比較実験
  9. 低酸素施設には行かないけど低酸素みたいな効果を味わいたい!

私見まとめ

低酸素トレーニング施設で高強度の運動をすると、正常酸素環境と比べて、以下のようなことが身体に起きている可能性が示唆されています⇣

✔解糖系の活性酵素の増加、”無酸素性能力の向上”効率が良いのではないか。

✔平均心拍数の増加・血中酸素飽和濃度の低下という”生理学的な負荷が増大”する。

✔酸素運搬の体内需要が高まり、筋肉内への血流量が増加する。それらによって筋肉”毛細血管の新生”を刺激する。

✔筋力トレーニングを実施すると、筋たんぱく合成シグナルが強まり、より効果的な筋肥大・筋力向上が期待できる。

✔低酸素環境であっても、高強度の到達度は低下しないようである。しかしセット内の回数や量が増えると正常酸素よりもパフォーマンスが低下していく。

✔エネルギー需要が高まり、代謝が活性し、脂肪量の減少に貢献するのではないか。

低酸素トレーニング施設で強化する際に「気にかけたい」ポイント

トレーニングによって”高めたい能力(運動強度×量)”を明確にするべし

通常の環境でも同じですが、肉体への負荷は複合的です。つまり様々な要因によって肉体へ刺激を与えることができます。

“低酸素環境”というのも刺激要因のひとつである。という認識をキチンと持ちたいね。

低酸素がキツくて、狙った”泳速度”を発揮できない…。な〜んてことがあると、充分な刺激とならないでしょう。

あえて高地トレーニングには行かず、低酸素トレーニング施設で鍛えるという選択

✔高地環境では、トレーニング時も日常生活でも「低酸素」環境となります。

✔低酸素トレーニング施設では、トレーニング時のみ「低酸素」環境で、日常生活では「正常酸素」環境となります。

リスクや金銭面のことを考えると…。みなさんそれぞれの思惑が良い方向へ行きますように願うばかりです。

トレーニング施設は「低気圧低酸素」「正常気圧低酸素」どっが効果的で優れているの?

■低気圧低酸素は、気圧も酸素分圧も下げることのできる施設設備

■正常気圧低酸素は、空気中の酸素分圧のみを下げることができる施設設備

これらの環境でのトレーニングが骨格筋の適応に与える影響について、現在では比較した研究なども少なくて分かっていない。
大きな違いがあるとは言えない。

2021:Pierre Lemieux and Olivier Birot

余談

私個人の感覚としては、アシックス・スポーツコンプレックス施設を利用している競技者で結果に結びついているなと思うのは、

疲労をモニタリングしながら、スプリント・トレーニングを頻繁に取り入れているチームや選手たちという印象です。

たまたまその選手の課題が”ソコ”だったのかもしれませんが。

ちなみに、プールサイドで早歩き程度なら低酸素であることを感じません。走ると呼吸がキツく感じます。私は。

論文紹介①

題名:Effects of Swimming-Specific Repeated-Sprint Training in Hypoxia Training in Swimmers
著者:Marta Camacho-Cardenosaら
公開日:2020年8月11日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC7739721/

論文結果:生理学的な負荷は明らかに高かったが、タイム短縮は見られなかった

✅低酸素トレーニングでは、通常酸素トレーニングと比べて、生理学的な負荷が高いことが示唆された(心拍数が高く・SpO2が低値であること)

✅低酸素トレーニングでも、通常酸素トレーニングでも、実験介入後の(100mおよび400m)タイムトライアルではタイム短縮が見られなかった。

※論文内では、低酸素環境(標高4040m程度)の環境が厳しすぎる要素であったのではないかと述べられている。

論文内容:”ジュニア水泳選手”4週間(週2回)のトレーニング介入によるクロスオーバー実験

<参加者>

・10名の水泳選手が実験に参加(平均年齢16歳、全員がスイミングクラブに所属)
(実験前の400mタイムトライアルは平均5分程度、100mタイムトライアルは64秒程度の集団)

・低酸素(標高4040m程度:フェイスマスクによる正常圧低酸素環境)トレーニングと通常酸素トレーニングでのクロスオーバー実験。

<実験内容>

・4週間(週2回)のトレーニング期間
・低酸素および通常酸素のどちらでも同じトレーニング介入で実施された。
・1回の練習(約5000m)中の最後のメインメニューとして以下が実施された。

■15m×5本×3セットの”オールアウトスプリント”
– 1本ごとに20秒間の休息
– セット間では200mのイージースイム


※素人(私)の戯言:読み取れない部分が多かった。。実験手順や参加選手の概要などイマイチ分からないことが多い内容の論文であった…。

論文紹介②

題名:Intermittent hypoxic training for 6 weeks in 3000 m hypobaric hypoxia conditions enhances exercise economy and aerobic exercise performance in moderately trained swimmers
著者:Hun-Young Parkら
公開日:2017年10月11日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC6135977/

論文結果:ある程度の競技歴がある被験者の400mパフォーマンスが向上しました

✅低酸素環境でトレーニングを実施したグループの方が、400mタイムトライアルのタイム短縮が大きかった。

✅低酸素環境でトレーニングを実施したグループの方が、運動経済性の改善効果が大きいことが示唆された。

論文内容:”水泳経験者”6週間(週3回)の低酸素トレーニング

<参加者>

・20名(男性10名/女性10名)のある程度の水泳競技歴のある集団が実験に参加(平均年齢23歳)
(実験前の400mトライアルタイムは平均4分50秒程度であった)

・参加者は、10名ずつ2つのトレーニンググループに分けて比較実験された。
①通常酸素グループ
②低酸素グループ(標高3000m相当)※低圧低酸素室を使用

<実験内容>

・6週間のトレーニング期間が設けられた。週3回、1回あたり90分のトレーニングであった。

・トレーニング内容は、ウォームアップ-有酸素連続運動-インターバル運動-クールダウンで組み立てられた。
– 有酸素連続運動はトレッドミルで、80%HRmaxで30分間)
– インターバル運動はサイクルエルゴメーターで、90%HRmaxの運動負荷でインターバル運動(2分間運動×10回、インターバル1分)

・どちらのグループも同様に、通常酸素環境での水泳トレーニングおよびレジスタンストレーニングが実施された。

・トレーニング期間の前後で、400mパフォーマンス、体組成や血液学的パラメータなどが測定された。

論文紹介③

題名:Aerobic Continuous and Interval Training under Hypoxia Enhances Endurance Exercise Performance with Hemodynamic and Autonomic Nervous System Function in Amateur Male Swimmers
著者:Sung-Woo Kimら
公開日:2021年4月9日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC8068973/

論文結果:水泳愛好家レベルの400mパフォーマンスが向上しました

✅低酸素環境でトレーニングを実施したグループの方が、400mタイムトライアルのタイム短縮が大きかった。

✅低酸素環境でトレーニングを実施したグループの方が、VO2maxの向上が大きかった。

✅低酸素環境でトレーニングを実施したグループの方が、自律神経系(ANS)機能の向上が示唆された。

論文内容:”水泳愛好家”6週間(週3回)の低酸素トレーニング

<参加者>

・男性20名の水泳愛好家が実験に参加(平均年齢24歳)
(実験前の400mトライアルタイムは平均5分15秒程度であった)

・参加者は、10名ずつ2つのトレーニンググループに分けて比較実験された。
①通常酸素グループ
②低酸素グループ(標高3000m相当)※低圧低酸素室を使用

<実験内容>

・6週間のトレーニング期間が設けられた。週3回、1回あたり90分のトレーニングであった。

・トレーニング内容は、ウォームアップ-有酸素連続運動-インターバル運動-クールダウンで組み立てられた。
– 有酸素連続運動はトレッドミルで、75%HRmaxで30分間)
– インターバル運動はサイクルエルゴメーターで、90%HRmaxの運動負荷でインターバル運動(2分間運動×10回、インターバル1分)

・トレーニング期間の前後で、400mパフォーマンス、体組成や血液学的パラメータなどが測定された。

論文紹介④

題名:Intermittent hypoxic training improves anaerobic performance in competitive swimmers when implemented into a direct competition mesocycle
著者:Miłosz Czubaら
公開日:2017年8月1日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC5538675/

論文結果:低酸素トレーニングを取り入れたグループでは、水泳パフォーマンスが向上しました

✅低酸素トレーニングを取り入れたグループの方が、100mおよび200mタイムトライアルでのタイム短縮が大きかった。

✅低酸素トレーニングを取り入れたグループでは、トレーニング期間後の無酸素性能力テスト(上肢30秒Wingate)の向上が大きかった。

論文内容:”水泳競技者”4週間(週10回中-2回の介入)トレーニングによる比較実験

<参加者>

・男性15名の水泳選手が実験に参加(競技歴6年以上の集団)
(実験前の100mタイムトライアルは54-55秒程度の集団)

– 低酸素(標高2500m程度)トレーニンググループ(8名)※正常圧低酸素
– 通常酸素トレーニンググループ(7名)

<実験内容>

・4週間(週2回)のトレーニング期間
– 週10回練習のうち2回が比較実験として実施された。

・週2回のトレーニング内容は、上肢および下肢のサイクルエルゴメーターによる高強度インターバルトレーニングが実施された。

論文紹介⑤

題名:Neuroendocrine Responses and Body Composition Changes Following Resistance Training Under Normobaric Hypoxia
著者:Jakub Chyckiら
公開日:2016年10月14日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC5260579/

論文結果:低酸素環境での筋肥大トレーニングのほうがより効果的な可能性が示唆された

✅低酸素環境でのトレーニングの方が、正常酸素環境よりも、インスリン様成長因子(IGF-1)分泌の上昇が有意であった。

✅低酸素環境でのトレーニングの方が、正常酸素環境よりも、筋肥大効果が向上する可能性が示唆された。

論文内容:”筋トレ経験者”6週間(週2回)の筋肥大トレーニングで比較実験

<参加者>

・男性12名が実験に参加(3年以上の筋トレ経験者)
– 低酸素グループ(6名)※正常圧低酸素(標高4000m程度)
– 通常酸素グループ(6名)
※どちらのグループも両方の環境条件での実施となるようにクロスオーバーが用いられた。

<実験内容>

・6週間(週2回)のトレーニング期間が設けられた。

・1RM70%の運動強度で、ベンチプレスとバーベルスクワットを10回×8セット実施。
(セット間の休息は3分間のパッシブリカバリー)

論文紹介⑥

題名:Heavy Resistance Training in Hypoxia Enhances 1RM Squat Performance
著者:Mathew W. H. Innessら
公開日:2016年11月3日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC5093137/

論文結果:低酸素環境での筋力向上トレーニングの方がより効果的である可能性が示唆された

✅低酸素環境での筋力向上トレの方が、プラセボよりも、1RMの向上が明らかに大きかった。

論文内容:”筋トレ経験者”7週間(週3回)の筋力向上トレーニングで比較実験

<参加者>

・男性20名(18歳から34歳)が実験に参加(1年以上継続的に筋トレ実施している集団)
・フェイスマスクを用いて酸素濃度が調整された。
– 低酸素グループ(10名)※正常圧低酸素(標高3100m程度)
– プラセボグループ(10名)

<実験内容>

・7週間(週3回)のヘビー(75%1RM)レジスタンストレーニングを行い、セッションは連続しない日に実施。
・スクワット、デッドリフト、ランジで実施され、セット内の回数は3~6回、セット数は2~4回であった。セット間の休息は3分。

論文紹介⑦

題名:Effects of strength training under hypoxic conditions on muscle performance, body composition and haematological variables
著者:Ismael Martínez Guardadoら
公開日:2020年2月11日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC7249800/

論文結果:低酸素トレーニングは、体組成の改善にも効果的である可能性が示唆された

✅低酸素環境でのトレーニングのほうが、正常酸素環境よりも、筋肉量の増加および脂肪量の減少が明らかであった。

論文内容:”筋トレ初心者”7週間(週3回)の筋トレで比較実験

<参加者>

・男性32名(平均25歳)が実験に参加(1年以内で筋トレ実施していない集団)
– 低酸素グループ(16名)※正常圧低酸素(標高4300m程度)
– プラセボグループ(16名)

<実験内容>

・7週間(週3回)のトレーニング期間。その後に3週間のdeトレーニング期間を設けられた。
・バーベルベンチプレス/EZバーバイセップスカール/ライイングEZバーフレンチプレス/ペンドレーロー/ハーフスクワットの順で実施。
・1RM65%で10回×3セットであった。セット間の休息は90秒。※トレーニング期間に応じて負荷を高めていった。

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