競泳の基礎知識:ストローク長とストローク頻度について

ありがたいことに、競技力向上を目的とした勉強会や講習に声をかけていただける機会があります。

勉強を深めていったり情報を受け取る際に、前提となる基礎知識を持っていると役に立つ場面が多いように思います。

今記事は、そんなときの基礎知識を事前に共有するために、ゆる~く書き進めていきたいです。

目次

泳ぐ速度(Velocity) = ストローク長(Stroke Length)×ストローク頻度(Stroke Frequency)

泳ぐ速度とは、ストローク長(1かきで進む距離:SL)とストローク頻度(かきのテンポ:SF)とで求められます。

つまり、速く泳ぐためには、1かきで進む距離を伸ばすこと・ストロークテンポを上げることによって達成されることになります。

しかし、この2つの関係性はトレードオフであるとも言えます。テンポを上げれば1かきの距離が短くなりやすい。

さらに、泳速度をキープするためにはエネルギーコストについても考えなければいけませんよね。

レースを速く泳げるようになるには、様々な変数があります。

今記事では、主にSLとSFについて考えを巡らせていきたいと思います。速くなりたい誰かのお役に立てたら幸いです。

速い選手と遅い選手との比較①

✅ タイムが速い水泳選手は、タイムが遅い水泳選手と比べて、より長いSL・より高いSFであることが観察された。

【実験参加者】36名の水泳選手が100m全力クロールにて比較分析された。

Ludovic Seifertら:2007

選手個人内での比較

✅ 最大の泳速度は、「SLとSF」の最適な組み合わせによって達成された。

⇨ 最大の泳速度は、最も長いSLが観察された時でも、最も高いSFが発揮された時でもなかった。

⇨ さらに、推進力が最も高いときでも最大の泳速度が発揮されているわけでもないことが分かった。

※推進力は、手部の圧力差による測定。

【実験参加者】38名の水泳選手が25m全力クロールを3回実施して分析された。

Jorge E. Moraisら:2022 Apr

速い選手と遅い選手との比較②

✅ タイムが速い水泳選手グループは、タイムが遅い水泳選手グループと比べて、より高いSFが観察された。

✅ 推進力の平均値を分析したところ、タイムが速い水泳選手グループとタイムが遅い水泳選手グループとの間に、少しの差はあったが、有意差は認められなかった。

⇨ つまり、泳速度の差は、推進力の大きさの差によるものでは無く、「抵抗値」なども考慮する必要があるかもしれない。

【実験参加者】2つのグループに分けて比較された。
① ジュニアグループ:12名の男性水泳選手。平均年齢16歳。平均体重70kg。平均身長177cm。平均FINAポイント572。
② ジュブナイルグループ:10名の男性水泳選手。平均年齢15歳。平均体重66kg。平均身長176cm。平均FINAポイント560。

Jorge E. Moraisら:2022 Nov

私見まとめ

■ ストローク頻度(SF)を上げれば、泳速度も上がりやすいが、腕による推進力は落ちやすく、ストローク長(SL)は減少する傾向がありそう。

■ SFを上げて泳いだ結果、キャッチ局面での技術(力発揮のベクトルやタイミング)が低下しがち。だからプル⇨プッシュでの推進力も落ちちゃうかも。さらに、前額面の抵抗も増えちゃってることが多いかも。

今記事では、いわゆる「壁ぎわ(スタート・ターン区間)」を除いた「泳ぎの区間」をテーマに進めてきました。

選手個人にとっては推進力を大きくすることが、必ずしも泳速度の向上に直結するわけでは無いことが分かりました。

ここでは、私が個人的に「タイム短縮において大切にしたい視点」について書いてみます。

「短期と長期」の視点から見てみよう。

長期の視点では【筋力や体力】

大きな泳速度を発揮しようとする上で、SLと推進力を高めていくのは重要です。

しかし、SLと推進力を向上させるためには、自分の身体の大きさ(質量)を十分に扱えるだけの「筋力」が必要だと考えられます。

これには長期的に取り組んでいく必要があるでしょう。

短期の視点では【技術】

一方で、「抵抗を減らす」または「SFを高める」といった取り組みは、比較的に短期で獲得できる能力だと思います。それゆえ、頭打ちも早い段階で訪れるでしょう。

このように、短期と長期で「速くなるための取り組み」を整理してトレーニングプログラムを実行していきたいものです。

大切なのは、短期と長期の狙いを「行ったり来たり」

トレーニングプログラムは螺旋階段的にね。

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