No.154 大腿四頭筋(もも前)とハムストリングス(もも裏)の筋力バランス(H:Q)について

トレーニング

トレーニング指導の現場にいるとよく聞く言葉の一つに

「もも前ばっかり使うな!もも裏で動け!」

というフレーズがあります。おもにコーチや指導者が、選手へ向けて発する言葉です。

もも裏(ハムストリングス:Hamstrings)、もも前(大腿四頭筋:Quadriceps)

この両者の筋力に対する比率を「H:Q比」といいます。

ハムストリングスと大腿四頭筋の筋力バランスが悪いと何が起こるのか?

また、アンバランスを改善するための方法は何かあるのか?

考察してみます。

スポンサーリンク

H:Qについて

「もも裏」と「もも前」の筋力バランスが悪いことによって、

もも裏(ハムストリングス)のケガ損傷を負う可能性が高まることが報告されています。

2009:S S Yeungら)(2008:Jean-Louis Croisierら

具体的には

ハムストリングスの筋力:大腿四頭筋の筋力=0.6:1

つまりハムストリングスの筋力が大腿四頭筋の60%以上の強さであると、ケガ発生のリスクが低いという報告がある。

1984:T M Heiserら

※大学生サッカー選手におけるケガ発生についての報告


しかし、H:Q比が0.6を基準として測定方法は、不適切ではないかという指摘もあり、別の測定基準の提案が現在でも議論されているようです。

2019:Cassio V. Ruasら

「H:Q比」は、どのように測定されているのか?

「H:Q比」の測定は、多くの研究でダイナモメーターという機器で測定されています。

われわれ一般人は、現実的に「H:Q比」を測定しようとすると、専門の機関へ出向く必要があります。

つまり、H:Qのバランスは

多くの研究で報告されている内容として共通項目をざっくり言うと、

ハムストリングスの相対的な「弱さ」がアンバランスを引き起こしている。

と考えられます。

もも裏(ハムストリングス)を鍛える方法

「H:Q比」のアンバランスを改善するためには、ハムストリングスの筋力向上が重要な要素である。と言われています。

さらに詳しく言うと、「ハムストリングスのエキセントリックトレーニング」による筋力向上が膝関節の機能改善に効果的であると指摘されています。

2018:Cassio V Ruas

では実際に、ハムストリングスを鍛える方法について考えてみます。

あえて一つだけエクササイズをやるとしたら

「グッドモーニング」というトレーニング種目をオススメします。

「グッドモーニング」エクササイズは、クローズドキネティックチェーンと呼ばれる運動で、股関節が大きく屈曲し、ハムストリングス筋が強く伸ばされる(エキセントリック刺激)性質がある。

そのため、ハムストリングスの損傷を予防するための有効な種目であると考えられます。

2013:Florian Schellenbergら
2015:Andrew David Vigotsky
2017:Florian Schellenberg


他の種目と比較してみる

引き続き、「あえて」一つの種目だけ実施するとしたらという視点から考えてみます。

※トレーニングは「刺激への適応(慣れ)」という観点から、一つの種目だけでなく様々な種目に取り組みながら新鮮な刺激を体に与えていくことが必要です。じゃあなんで「あえて一つ」やねん。。暇だから考えちゃうんです。

ヒップリフトvsグッドモーニング

ヒップリストやヒップスラストは、ハムストリングス筋肉で見ると、コンセントリック収縮が主なトレーニング刺激となる種目です。

それに対して、グッドモーニングは、エキセントリック収縮がハムストリングスへの刺激が主となります。

「H:Q比」の改善という視点で考えると、ハムストリングスへのエキセントリック刺激が重要だと思われます。

よってグッドモーニングの勝ち。

ノルディックハムvsグッドモーニング

ハムストリングスへのエキセントリック刺激という点では、同等かもしれません。

種目への取り組みやすさという点では、グッドモーニングが勝利するのではないかと。

ノルディックハムは、足部を固定するための場所や機材が必要ですが

グッドモーニングは、自重で道具無しでも実施することができる種目です。

よってグッドモーニングの勝ち。


グッドモーニングを紹介している記事↓

No.85 ハムストリングスを鍛える【グッドモーニング】エクササイズ解説

私見まとめ

もも裏(ハムストリングス)を鍛える重要性(ケガ発生のリスクを低くする)は理解できました。

そのためのトレーニング種目(グッドモーニングやノルディックハムなど)があることも分かりました。

筋トレしたのに使えない!と嘆くスポーツ選手へ

今記事では、「膝関節のケガや痛みの発生リスクを低減させるためにハムストリングスを鍛えることがオススメ」ということをお伝えしたつもりです。

「ケガ予防」のためにトレーニングを実施するという目的のほかに、

「パフォーマンス向上」のためにトレーニングを実施するという目的もあるでしょう。

そんなアスリートの方々へ向けた【考え方】のようなものを共有します。

運動をハードウェアとソフトウェアに分けて考えてみる

✅「身体」はハードウェア
✅「技術」はソフトウェア

このように分けて考えてみます。

例えば、水泳選手が筋力トレーニングを実施して「筋肉」が強くなったとします。

筋肉というハードウェアがグレードアップしたというのは、iphone7からiphone8へ進化したと考えます。

筋トレによって本体は進化しましたが、ソフトウェア(中身)は以前のままです。

「中身」というのは、iosやアプリはアップデートしていない状態となります。

つまり、

筋トレが直接的に競技パフォーマンス向上に結び付いているわけでは無い。

と言えます。

しかし、ハードウェア(本体)は、以前よりも良くなっているので

新しいソフトウェア(技術や動き)を獲得しやすい状態にあるでしょう。

私はこのように、競技パフォーマンスとの関係性を考えています。


別記事でも、同様のことを違った角度から考察しています↓

No.100 なぜウエイトトレーニングが競技力に直結しないのか?

No.135 ウエイトトレーニングを実施する意味について説明する際に用いる例え話【スポーツ選手と競技コーチへ】

タイトルとURLをコピーしました