50m×20本か、100m×10本か?インターバル練習の意味を比較検討してみよう

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「今日のメインは50m×20本だ!」「いや、100m×10本の方がスタミナがつくはずだ!」「そんな根性練習は要らない!」

水泳の現場では、今日も議論が繰り返されているような気がする。
指導者も選手も、まるで「メニューのフォーマット」の中に、タイムを劇的に縮める魔法の呪文が隠されているかのように信じて疑わない。

だけど、残酷なことに身体は、あなたが何メートル泳いだかなんて理解していないのよね。身体が理解するのは、筋肉や心肺機能に「どのような強度の負荷が、どれだけの時間かかったか」という生理学的な刺激だけだね。

この記事は、私たちがこれまで信じてきた「練習メニュー信仰」という価値観を再考し、本質的な「トレーニングの設計」を目指すためのきっかけとしていきたい。指導者や、速くなりたいと本気で願うスイマー、そしてトライアスリートの皆さんに届くことを願って書いてます。

スポーツの育成現場には、知らず知らずのうちに陥っている「思考停止」が存在する。その最たるものが、「メニューの形」や「泳ぐ距離」への過剰な執着のような気がしています。

「あの強豪校がやっているから」「苦しい練習を乗り越えれば、きっと本番で報われるから」

表面的な数字の羅列(距離や本数)を真似て、ただひたすらに疲労困憊になるまで追い込むのは、単なる「作業」になってしまっているのかもしれません。もっと伸びるはずなのに停滞しているのだとしたら、それは努力が足りないからではなく、努力の「方向」と「質」を見誤っているからかも。

目次

この記事で読者に伝えたいこと

▶︎「疲労」と「適応」を切り分けてデザインしよう

「練習をこなして疲れること」が目的になっていないかな?トレーニングとは、身体というハードウェアに意図的なストレスを与え、適応・進化させるための単なる「手段」ですね。無駄な疲労は、フォームを崩し、質の高い動作の学習を阻害するだけかも。

▶︎「特異性の原理」からは逃れられない

「スタミナをつければ、後半バテずにすべて解決する」というのは幻想です。持久的な有酸素トレーニングの延長線上に、純粋なスプリント力の向上は存在しませんね。欲しい能力があるなら、それに特化した刺激を与えなければならないのです。

研究論文の紹介

【短期間で検証】50m×20本 vs 100m×10本

50mと100m、同じ総距離とペースのインターバルトレーニングを行い、どちらが疲労を抑えて質の高い練習ができるかを比較・検証した研究です。

<実験の参加者>

全国レベルの競泳選手14名(男女、平均年齢は約19歳)。

<実験の内容>

参加者は別々の日に、以下の2つのトレーニングメニューを両方とも実施。
・USRPT:50m × 20本
・RPT:100m × 10本

どちらのメニューも、「合計距離は1000m」「200mのレースペース(自己ベストの95%)」「泳ぐ時間と休憩時間の比率が1:1」というように、身体にかかる負荷の条件を完全に揃えて行われました。
実験中は毎回のタイムとストローク数を計測し、練習の2分後と5分後には血中乳酸濃度(疲労の指標)や、神経・筋肉の疲労具合を調べるための垂直跳び(ジャンプ力)の測定を実施。

<論文の結論>

50mで細かく分ける方が、100mよりも疲労(ジャンプ力の低下)を抑えられ、フォームの崩れを防ぎながら目標のペースを最後まで維持できることが分かりました。

題名:Lower fatigue and faster recovery of ultra-short race pace swimming training sessions
著者:Francisco Cuenca-Fernándezら
公開日:2021年5月25日
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34032530/


【中長期で検証】インターバルの違い(50m vs 100m)を8週間で調査

合計距離や強度が同じ場合、50mの短いインターバルと100mの長いインターバルで、8週間後のタイムや持久力、泳ぎの技術向上にどのような違いが出るかを比較・検証した研究です。

<実験の参加者>

水泳のトレーニング経験がある男性24名(平均年齢は22〜23歳)が参加。

<実験の内容>

参加者を「50mグループ」「100mグループ」「何もしないグループ」の3つに分け、週3回のトレーニングを8週間続けました。
50mグループ: 50mを12〜16本(休憩15秒)
100mグループ: 100mを6〜8本(休憩30秒)

この実験の最大のポイントは、「合計距離」「泳ぐペース(強度)」「運動と休憩の時間の割合(2:1)」を両グループで完全に同じ条件に揃えたことです。8週間のトレーニングの前後で、50m・100m・400mの全力タイム、心肺機能(最大酸素摂取量など)、ストローク長などを測定し、能力がどう変化したかを比較検証。

<論文の結論>

条件が同じなら、50mでも100mでも、8週間後の100m・400mのタイムや持久力の向上効果は「ほぼ同じ」でした。ただし、どちらの練習をしても50mのタイムは速くなりませんでした。

題名:Effects of Short-Interval and Long-Interval Swimming Protocols on Performance, Aerobic Adaptations, and Technical Parameters: A Training Study
著者:Dalamitros, Athanasios Aら
公開日:2016年10月
https://journals.lww.com/nsca-jscr/fulltext/2016/10000/effects_of_short_interval_and_long_interval.25.aspx

私見まとめ

運動強度とレストの比率が同じであれば、50mで細かく刻もうが、100mで長く泳ごうが、中長距離のタイム向上やVO2maxの増加という「結果」において本質的な差はないっぽいね。

身体は「何メートル泳いだか」をカウントしてはおらず、ただひたすらに、与えられた「エネルギー需要の総量」に適応しようとしているだけなのかもしれません。

「どっちが優れているか」という二元論では語れない

ここで、「なんだ、じゃあどっちでもいいのか」とか「疲労が少ない50mだけやればいいんだな」と結論づけるのは、いささか浅はかで短絡的な思考かもよ。

水泳のストローク技術という側面から見ると、ある程度の長い距離(100m)の反復は、疲労によってストローク効率を低下させがちで、「遅い泳技術の上書き保存練習」になることが考えられます。なんらかの技術的な意図のある練習であれば、無駄な疲労を抑えられるショートインターバル(50m)を選択するのがよいのかもしれませんね。

では、100mのインターバルは50mに比べてダメなのかと考えてみるとそうではない。100mのインターバルはピーク有酸素パワーの向上においてわずかな向上効果を持っているように見える。もし、有酸素性のエネルギー回路・乳酸のリサイクル回路を鍛えたい、あるいはより長く連続して出力を保つ能力を高めたいというような明確な意図がある日なら、100mを選ぶのも良いかと。

細胞は、同じ刺激の繰り返しに「慣れる」。そして慣れた瞬間、成長は止まりがち。毎日同じペースで同じ距離を泳いでいれば、身体も心も飽きてしまいますね。だからこそ、ある日は50mでテンポよく回し、ある日は100mで粘らせる。生理学的な「中身(刺激)」は担保したまま、「形」に変化をつけてみる。そういった意図が、選手を飽きさせず限界を突破させる「メニューの使い分け」かもしれませんね。

「特異性の原理」という現実

そして、今記事で特に述べておきたいのは、「有酸素性のインターバルをどれだけやっても、50mの純粋なスピードは速くならなかった」ということについて。

どれだけ心拍数を上げ、どれだけ過酷な練習をこなそうと、スプリント力は上がらない。これがトレーニングの「特異性の原理」ですね。「スタミナをつければ、後半バテずに解決する」という考えへの、強烈なアンチテーゼですね。基礎的なスピードの底上げがなければ、全体の巡航ペースを引き上げることは難しい。

絶対的なスピードを高める意図ならば、有酸素性のインターバル練習は向いていません。スプリントトレーニングや、陸上で絶対的な筋力(ハードウェア)を高めるレジスタンストレーニングなど、別のアプローチが必要になります。

みんなで、ブチあげていこ。

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この記事を書いた人

山﨑 裕太のアバター 山﨑 裕太 コーチ

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