海の生き物から学ぶ、競泳進化へのヒントについて。水泳の推進力を最大化する「バイオミミクリー」

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競泳というスポーツは、過酷な「減速ゲーム」です。スタート直後または壁を蹴った直後が最高速で、そこからは水の抵抗によってひたすら速度が落ちていきます。

そこで私たちが目指すべきは、単に筋肉や心肺機能を鍛えるだけではなく、速く泳ぐための技術も高めていかねばなりません。

「いかに水とケンカせず、いかに効率よく水を味方につけるか」
この本質的な課題に対するヒントを、海の生き物たちが持っているかもしれない。

ってことで、海の生き物たちがどうやって水の中を泳いでいるのか?
この記事では人間がもっと速く泳ぐためのヒントを散りばめておくよ。読者のみんな、自己責任で取り扱ってねw


目次

1. 【加速のヒント】ピッチを上げる前に「トルク」を太くせよ

(モデル:魚のギアチェンジ)

多くのスイマーは、泳ぐ速度を上げようとする時にすぐ「手足を速く動かそう(回転数を上げよう)」としがち。だけど、これは自転車でいきなり軽いギアを高速回転させるようなもの。空回りしてエネルギーをロスします。

魚は、急加速が必要なとき、尾びれを振る「頻度」だけでなく、振る「幅(振幅)」を30%以上も一気に増加させる。

  • アクション: 壁を蹴った後の「浮き上がり」。速度が落ち始めたと感じた瞬間の1〜3蹴り目を、あえて「普段よりも深く・大きく」打つ。
  • ポイント: 止まりかけた大型車を動かすには、回転数ではなく「重いトルク」が必要です。大きなキックで水の中に「巨大な渦」を作ることで、停滞した体に強力な前進エネルギーを叩き込もう。

参考文献
Accelerating fishes increase propulsive efficiency by modulating vortex ring geometry:2017.Otar Akanyetiら


2. 【推進のヒント】水は「押す」のではなく「ネジ込む」

(モデル:水生カエルのキック)

「水を真っ直ぐ後ろに押す(抗力)」のは、実は効率が悪い方法かも。
水生カエルの研究では、足を単に後ろに蹴るのではなく、外から内へ「円を描くように」絞り込むことで、飛行機の翼と同じ「揚力」を生み出していることが判明しています。

  • アクション: 平泳ぎのキックやクロールのキャッチで、手のひらや足の裏を「面」で当てるだけでなく、フィニッシュにかけて内側へ「ギュッ」と絞るというかスクリューのような加速する回転を加える。
  • ポイント: 水を「後ろに捨てる」のではなく、自分を「前へ吸い込ませる」感覚。パントマイム的な。そんな回転を加えることで、水の中に「螺旋(ねじ)の道」を作るイメージを持ってみよう。

参考文献
Propulsive efficiency of frog swimming with different feet and swimming patterns:2017.Fan Jizhuangら


3. 【リズムのヒント】「サッと準備」と「じっくり放射」

(モデル:オウムガイのリズム)

効率的な泳ぎの秘密は「時間配分」にある。
深海の省エネスイマー・オウムガイは、水を吸い込む時間を極端に短く、水を吐き出す(進む)時間を長く取ることで、エネルギーロスを最小限に抑えているようです。

  • アクション1.水中のプル: 後半に向かって、長く、粘り強く加速させる。
  • アクション2.空中のリカバリー: 抵抗を避けるためも、必要最小限の力で一瞬で終わらせる。
  • ポイント: 「1:1」のリズムは、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもの。「間(短)」と「放射(長)」という非対称なリズムが、疲れ知らずの「推進力」を生み出すのかもだね。

参考文献
Swimming mechanics and propulsive efficiency in the chambered nautilus:2018.Thomas R Neil and Graham N Askew


4. 【柔軟性のヒント】足首を「鞭(ムチ)」から「板」へ変貌させる

(モデル:イルカの尾びれ)

「足首は柔らかければ良い」というのは半分正解で、半分間違いかも。
イルカは、通常巡航時はしなやかに、瞬発的な加速時は尾びれの付け根を「硬く」して、推進力を11.2%も向上させていることが分かりました。

  • アクション:
    • 低速(中長距離): 足首の力を抜き、水に委ねるようにしなやかに使う。
    • 高速(スプリント): 足首に適度な「剛性」を持たせ、水を弾くように。
  • ポイント: 自分の足を、状況に応じて硬さが変わる「ハイテクなフィン」だと思ってみよう。「柔らかさ」は効率のため、「硬さ」はパワーのため。 このスイッチの切り替えが、水に負けないキックを生むかもだね。

参考文献
Thrust generation and propulsive efficiency in dolphin-like swimming propulsion:2023.Jiacheng Guoら


5. 【イメージのヒント】水の中に「真空の道」を作る

(モデル:クラゲのバーチャル・ウォール)

最後に、世界で最も効率が良いとされる「クラゲ」の智慧を。
クラゲは筋肉で進んでいるのわけではないのよね。傘を閉じる瞬間に、自分の体の「前」の圧力を下げ、前方に自分を吸い込ませているっぽい。さらに自身の作った渦を「壁」のように利用し、それを蹴ることで推進力を高める「仮想壁:バーチャルウォール」を利用していることも示唆されているね。

  • アクション: 腕を伸ばしたストリームラインのとき、指先の先に「穴が開いている」と想像する。そこに向かって体が吸い込まれていく感覚を研ぎ澄ませる。
  • ポイント: 「後ろを掻く」意識ではなく、「前の隙間に入る」意識へ。力を入れて水と戦うのではなく、水が自分を前に引き込んでくれる「道」を作る。OK?抵抗をゼロに近づける意識で泳いでみよう。

参考文献
The Hydrodynamics of Jellyfish Swimming:2021.John H. Costelloら


水泳は、根性だけではなく「知性」で勝つゲームへ

自然界の生き物たちが教えてくれるヒントを参考に知性も活用して、パフォーマンスを向上させていこうね。

  1. 加速は「幅」から作る(魚)
  2. 推進は「回転」で作る(カエル)
  3. リズムは「非対称」で作る(オウムガイ)
  4. 足首は「スイッチ」で作る(イルカ)
  5. 前進は「吸い込み」で作る(クラゲ)

これらはすべて、あなたの筋肉を鍛える話ではなく、「水という環境をどう利用するか」という知性の話です。

「もっと必死に掻け」「もっと追い込め」……。

水泳は、力で水をねじ伏せる暴力ではありませんよね。むしろその逆、「水という巨大なエネルギーにいかに降伏し、同化するか」を競う、極めて知的で静かな対話だと考えてみよう。

今回紹介した5つの進化戦略は、単なる「コツ」ではないよ。自然界のマスターたちが導き出した「水の言語」そのもの。

明日からの練習では、がむしゃらに距離を泳ぐのをやめてみよう。そして、全身を流れる水に対して、神経を集中させてみる。みんなで「表現者」へと進化していこ。

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この記事を書いた人

山﨑 裕太のアバター 山﨑 裕太 コーチ

アスリートのコーチングが仕事
オリンピック選手指導
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