「あの子はメンタルが強いから本番に強い」 「自分はメンタルが弱いからタイムが出ない」
スポーツの現場、特に水泳のような個人競技では、こうした会話をよく耳にします。しかし、そもそも「メンタルが強い」とは具体的にどういう状態を指すのでしょうか?
単に「気が強い」「根性がある」ということではありません。
競技スポーツにおける「メンタルの重要性」は、もはや常識として語られています。
水泳という個人種目は、技術の精度はもちろん、プレッシャー状態での集中力や自己管理能力が直接タイムに反映される競技だと思われます。
だからこそ、選手一人ひとりの心理的特性を理解し、それをどう活かして育てていくかが選手自身にとっても指導者にとっても鍵になるんじゃないかな。
この記事を通して読者に伝えたいこと
・メンタルの強さは「性格」だけでは決まらない。
・ストレスを「敵」ではなく「成長のチャンス」と捉える変換能力が重要。
・「自分ならできる(自己効力感)」という確信が、能力を結果に変えるスイッチになる。
・「未来の自分」を具体的にイメージできる選手は、プレッシャーに強い。
研究論文の紹介
メンタル強い選手の4つの共通点
1. 性格の強み (Character Strengths):人間性、活力、意志の強さ。
2. ストレス評価 (Stress Appraisal):プレッシャーをどう捉えているか。
3. 自己効力感 (Self-Efficacy):「自分にはできる」という自信。
4. 未来の自己連続性 (Future Self-Continuity):現在の自分と未来の自分がつながっている感覚。
研究の概要
この研究は、中国の北京師範大学の研究チームによって行われ、中国国内から集められた水泳選手(n=603)を対象とした。参加者は国際レベルから国内レベルまで、様々な競技レベルの選手が含まれた。
これまで個別に研究されることが多かった心理的要素を統合的に分析すること。Peterson & Seligmanの「性格の強さ」理論と、Mischelの「認知的・感情的パーソナリティシステム(CAPS)」理論を組み合わせ、選手の心理構造を多角的に解明しようとしたもの。
題名:Psychological mechanism of character strengths and psychological stress affecting the athletic performance in swimmers
著者:Ze Wangら
公開日:2025年7月22日
https://www.nature.com/articles/s41598-025-11936-5
測定された4つの心理的要素
▶︎性格の強み(Character Strengths)
– 親近感(Affinity): 他者との関係構築能力、チームワーク
– 活力(Vitality): エネルギッシュさ、積極性
– 意志力(Willpower): 目標達成への持続力、自制心
▶︎心理的ストレス(Psychological Stress Appraisal)
– チャレンジ評価: ストレスを成長機会として捉える
– 脅威評価: ストレスを危険として捉える
– 怪我評価: ストレスを身体的リスクとして捉える
▶︎自己効力感(Self-Efficacy)
– 「自分にはできる」という信念の強さ
– 困難に直面した時の粘り強さ
▶︎未来の自己連続性(Future Self-Continuity)
– 現在の自分と将来の自分との一貫性の感覚
– 長期的な目標への意識
主な研究結果
✅「性格の強み」は競技レベルと正比例
高い競技レベルの選手ほど、親近感、活力、意志力のすべてが高いスコアであった。これは、技術的な能力だけでなく、人格的な成熟も競技成績に重要であることを示している。
✅「ストレス評価」の方向性がパフォーマンスを決める
同じストレス状況でも、「チャレンジ」として捉える選手は高いパフォーマンスを発揮し、「脅威」や「怪我のリスク」として捉える選手はパフォーマンスが低下する傾向があった。
✅「自己効力感」が「性格の強み」をパフォーマンスに変換する
性格の強みは、自己効力感を通じて間接的に競技パフォーマンスに影響することが明らかになった。つまり、いくら性格的な強みがあっても、「自分にはできる」という信念がなければ、それを結果に結びつけることは難しいということ。
✅「未来の自己連続性」が「ストレス評価」を好転させる
将来の自分への明確なイメージを持つ選手ほど、ストレス状況を「チャレンジ」として捉えやすく、結果的に高いパフォーマンスに繋がると考えられる。
私見まとめ
いわゆる「メンタルが強い選手」と表現されてきた選手たちの正体に関するヒントのようなものについて記事を通して考えてみました。
強い選手ってのは、単に「気が強い」わけではなく、心の働きをうまくコントロールできている人たちなのかもだね。
みんなでメンタルを育てたい!
アクション①:技術だけでなく「人格」を磨く
指導者の視点:タイムを縮める練習だけでなく、選手同士で教え合う時間や、チームビルディングの要素を取り入れる。
選手の視点:挨拶や道具の整理整頓、チームメイトへの応援など、競技以外の振る舞いを見直す。それが回り回って自分の強さになります。
アクション②:ストレスの「リフレーミング(意味の書き換え)」
「緊張してきた…」と感じた時、それを「やばい」と思うのではなく、意図的に言葉を変えてこ。
× 「失敗したらどうしよう(脅威)」
◎ 「心臓がドキドキしてきた。体が戦う準備をしてくれている!(チャレンジ)」
この「捉え方の変換(リフレーミング)」を普段の練習からトレーニングしましょう。きつい練習の時に「辛い」と言う代わりに「強くなっている最中だ」と言ってみるのも効果的です。
アクション③:「小さな成功」で自己効力感を貯金する
自信は、誰かに励まされてつくものではありません。自分自身の「できた!」という体験の積み重ねで作られていくね。
選手の視点:練習日誌に「今日できなかったこと」だけでなく「今日できたこと」を必ず書く。
指導者の視点:いきなり高い壁を与えるのではなく、その選手が「頑張れば超えられる」ハードルを用意し、クリアさせる体験を積み重ねさせる。
アクション④:「未来の自分」と対話する
目先の大会だけでなく、もっと先の「理想の自分」をイメージしていこ。「将来どんな選手になりたいか?」「どんな人間になりたいか?」という長期的なビジョン(未来の自己連続性)が明確な選手は、目の前のプレッシャーに動じなくなります。今の苦しさが「未来の自分への投資」だと理解できるよきっと。
強さは「教わる」ものではなく「育む」もの
「メンタルが強い選手」とは、生まれつき強靭な心臓を持っている人ではないよね。
- 自分の心の動きを理解している人
- ストレスを味方につける技術を持っている人
- 未来を見据えて、今やるべきことを信じられる人
これらは、日々のトレーニングと同じで、意識的に鍛えることができるはず。
私たちコーチの役割は、単に泳ぎ方を教えることではありません。選手が自分の心と向き合い、コントロールできるようになるための「思考の枠組み」を手渡すこと。そして、彼らが未来を描くための手助けをすること。
技術も心も、正しいアプローチで磨けば必ず強くなります。 「身体を通して、心を育てる」。そんな指導を現場のみんなで一緒にめざしていこー。

