「正しいフォームへの意識」が水泳選手の感覚を鈍らせる?「形」だけを直しても泳ぎが変わらない理由。

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スイミングの現場で、コーチたちは日々選手に「フォームを崩さないで!」「正しい姿勢で!」と声をかけていますよね。

でも、その「正しい姿勢を意識させること」が、実は選手の身体感覚(固有受容感覚)を鈍らせてしまっているかもしれない……としたらどうする?

今記事では、「体幹トレーニングはやっているけど、泳ぎに繋がっている気がしない」「形は綺麗なのに、水中で身体を操れない」そんな悩みを持つ選手やコーチにとって、大きなヒントになるはずだよ。みんなでアップデートしてこ。

目次

この記事を通して読者に伝えたいこと

「正しい動き」を意識的に行おうと努力することが、かえって身体の位置感覚を狂わせる可能性があるかもよ。

逆に、「目を閉じて、動きをイメージ」したりすることで、身体のセンサー(固有受容感覚)は劇的に研ぎ澄まされていくかも。

トレーニングは「回数をこなす作業」でも「形を整える作業」でもなく、「脳と身体の対話」であるべきだということを伝えたい。

研究論文の紹介

題名:Motor imagery enhances core training effects on lumbar proprioception in elite swimmers: a randomized controlled trial
著者:Mónica Solana-Tramuntら
公開日:2025年9月1日
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12433939/

体幹トレーニングをどう意識して行うかで、体の感覚は正反対の結果になる?

【概要】
スペイン代表を含むエリートスイマー57名を対象に、11週間の体幹トレを比較。目を閉じ、背骨の動きをイメージしながら行った群は腰の位置感覚が大きく向上。一方、フォームや呼吸など技術を意識した群は感覚が低下。体幹トレは「正しさ」より、視覚に頼らず内側の感覚に意識を向けることが重要だと示された。

研究論文の内容

【対象者】
スペイン代表チームを含むエリートスイマー57名(男性34名・女性23名/平均年齢約20歳)。

【実験の流れ】
選手をランダムに以下の3つのグループに分け、11週間にわたり週6回、いつものスイム練習に加えて「腰部の屈伸運動(体幹エクササイズ)」を行わせた。

EG1(イメージ重視グループ):目を閉じて実施。
モーターイメジェリー(MI) を活用。「腰椎が一つずつ動く感覚」や「背骨のアライメント」を脳内でリアルにイメージしながら動作を行う。

EG2(技術重視グループ):目を開けて実施。
「正しい技術」と「呼吸のコントロール」 に意識を集中。指導者がフォームの正確性を重視させる、一般的によくある指導スタイル。

CG(コントロール群):特別な体幹トレはせず、いつものスイム練習のみ。

【測定したもの】
「腰部固有受容感覚(Lumbar Proprioception)」 ※目を閉じた状態で、指定された腰の角度をどれだけ正確に再現できるか(位置覚のズレ)を測定。これが正確なほど、水中で自分の姿勢を精密にコントロールできることを意味する。

論文結論

✅イメージ重視(EG1)は成功した。
「目を閉じて+イメージ」で行ったグループは、腰部の位置感覚のズレが大幅に減少し、感覚が劇的に鋭くなった(効果量 大)。

✅技術重視(EG2)はまさかの悪化したという結果でした。
「正しいフォームと呼吸」を意識して行ったグループは、なんと固有受容感覚の精度が低下してしまった(効果量 中〜大のマイナス)。何もしないより悪かったということ。

✅結論
単に体幹トレーニングをするだけでは不十分。視覚に頼らず、内部の感覚に意識を向ける(Motor Imagery)ことが、エリート選手の繊細な身体感覚を養う鍵となる。

私見まとめ

「形(フォーム)を意識して!」という良かれと思った指導が、選手の「自分の身体を感じる能力」を邪魔していた可能性があるかもしれないね。

ここからは、なぜそんなことが起きてしまうのか、そして私たちは明日からどうすればいいのか、現場目線で深掘りしてみよう。

「形」を追うと「感覚」が失われる?

なぜ、技術の形ばかりを意識していると感覚が悪化してしまうのか。上記で引用した論文内では、「意識的な制御(Conscious Control)」が過剰になると、脳が自然な感覚フィードバックを無視してしまう可能性が示唆されていたね。

僕らの指導現場でもよくあるよね。
「背中もっと真っ直ぐ!」
「肘を90度に曲げて!」
と、外側からの「正解」を押し付けすぎると、選手は「見た目の正解」を作ることに必死になる。すると、「今、自分の関節はどう動いているか?」「筋肉はどう伸び縮みしているか?」 という内なる声(固有受容感覚)がノイズとして処理されちゃうのかもしれない。

形だけの良い姿勢を作れても、水中で「あ、今は姿勢が崩れているな」と瞬時に気づくセンサーが鈍っていたら、レース後半の苦しい場面で泳ぎはバラバラになってしまうよね。

目を閉じることの意味

人間は情報の8割近くを「視覚」に頼っていると言われているね。
目を閉じるということは、そのセンサーを強制的にオフにするということ。すると脳は、残された情報源である「筋肉や関節からの信号(固有受容感覚)」の感度を爆上げせざるを得なくなるのだろうね。

「見えないから、感じるしかない」

この状況を作り出し、さらに「腰椎が動くイメージ」を脳内で鮮明に描くことで、脳の運動野と感覚野が強力にリンクし始めたんだと思う。これが、ただの筋力トレーニングを「神経系のトレーニング」へと進化させるスイッチなのかも。

明日の練習からできる「感覚入力」のスイッチ

じゃあ、明日からどうするか。 何も「技術指導をするな」ってことじゃないよ。導入の順番やアプローチを変えて試してみよう。

▶︎ドライランドで「目を閉じる時間」を作る
プランクでも、スクワットでも、いつもの補強運動を「ラスト1セットは目を閉じてやってみよう」と提案してみる。 「どこの筋肉が震えているか感じて」「左右の体重のかかり方の違いを探して」と、内観を促す声かけに変えてみるのはどうだろう。

▶︎「形」ではなく「感覚」を共通言語にする
「背中を反って」ではなく、「背骨の一つ一つが積み木のようなイメージで離してみて」と伝えてみる。 選手がそのイメージを持ちながら動けたとき、外見上のフォームも結果的に美しくなっていることが多い。

▶︎水中での応用
スイム練習でも、イージーやドリルで「目を閉じて(またはゴーグルを曇らせて)」数本泳ぐメニューを入れてみるのも面白い。視覚情報がない中で、水流や身体の位置をどう感じるか。 エリート選手ほど、この「見えない時間」に多くの情報を拾っているはずだよ。※安全確保をしっかりとね!

最後に

「トレーニングをしているのに、うまくならない」 もしそんな選手がいたら、それは筋力が足りないのではなく、「身体の解像度(身体地図)」 がぼやけているだけかもしれない。

外側のフォームを矯正する前に、まずは内側のセンサーを磨くこと。 目を閉じて、自分の身体の声を聞く時間。そんな静かな数分間が、100回のがむしゃらな反復練習よりも、選手のパフォーマンスを変えるかもしれないね。

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この記事を書いた人

山﨑 裕太のアバター 山﨑 裕太 コーチ

アスリートのコーチングが仕事
オリンピック選手指導
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