肩の痛みを抱えている人たちの肩甲骨(アライメント)には特徴的な姿勢の傾向があります。
その中のひとつに「SDR : scapular downward rotation(肩甲骨の下方回旋)」という姿勢があります。
このような肩甲骨の姿勢が、肩峰下疼痛症候群につながっている可能性も指摘されています。
このSDR(肩甲骨の下方回旋)を抱えている人は、腕を上げる動作(肩関節外転)をするとき
❌肩甲骨が上方回旋がスムーズに動かない
❌肩甲骨の挙上で動きを代償してしまう
それによって僧帽筋上部繊維が過度に働き、痛みの発生につながることもあります。
では、肩甲骨の上方回旋がスムーズに動かない場合、どこの筋肉の働きが弱いのか?
この場合「前鋸筋」の弱さが考えられるでしょう。
ウォールスライドエクササイズのやり方動画
肩甲骨の挙上(肩が上がるような動作)は、なるべく無くしたまま、前腕を上昇させていきます。
肩甲骨の上方回旋(下角が外側へ広がるような動作)をイメージしながら動かしていくことがオススメです。
ウォールスライドで鍛えられる主な筋肉
ウォールスライドエクササイズは、主に肩甲骨の動きをコントロールする筋肉をターゲットとしています。
| 筋肉名 | 読み方 | 役割とウォールスライドでの働き |
|---|---|---|
| 前鋸筋 | ぜんきょきん | 【主役】 肩甲骨を前方に突き出し、上方回旋させる働きを持ちます。ウォールスライドで腕を上げる際に、肩甲骨を安定させながらスムーズに動かすために最も重要な筋肉です。この筋肉の弱さが、肩の痛みや不安定性につながることが多いです。 |
| 僧帽筋下部線維 | そうぼうきんかぶせんい | 肩甲骨を引き下げて安定させる役割があります。ウォールスライドでは、腕を上げる際に肩甲骨が過度に挙上(すくみ上がり)するのを防ぎ、前鋸筋と協調して肩甲骨の正しい動き(上方回旋)をサポートします。 |
前鋸筋と僧帽筋下部線維の協調的な働きを促し、肩甲骨の正しい上方回旋を学習させることが、このエクササイズの最大の目的です。
ウォールスライドに期待できる一般的な効果
ウォールスライドエクササイズは、単なる筋力強化だけでなく、姿勢改善や肩の機能回復に多岐にわたる効果が期待して実施します。
| 効果の分類 | 具体的な効果 | 詳細 |
|---|---|---|
| 肩の機能改善 | 肩甲骨の正しい動き(上方回旋)の獲得 | 腕を上げる動作(バンザイなど)の際に、肩甲骨がスムーズに回転するようになり、肩関節への負担が軽減されます。 |
| インピンジメント症候群の予防・改善 | 肩関節のスペースを広げる動きを学習することで、腱板や滑液包が挟み込まれることによる痛みの予防・改善に役立ちます。 | |
| 肩の安定性の向上 | 弱くなりがちな前鋸筋や僧帽筋下部線維を活性化することで、肩関節全体の安定性が高まり、スポーツパフォーマンスの向上にもつながります。 | |
| 姿勢改善 | 猫背(円背)の改善 | 壁に背中をつけた姿勢で行うことで、背骨(胸椎)の伸展(反る動き)が促され、丸まった姿勢の改善に効果的です。 |
| ストレートネックの予防 | 正しい姿勢で実施することで、頭の位置が安定し、ストレートネックの予防や首周りの緊張緩和にもつながります。 | |
| 痛みの軽減 | 肩こり・首こりの軽減 | 僧帽筋上部線維(肩をすくませる筋肉)の過剰な働きを抑制し、正しい筋肉(前鋸筋・僧帽筋下部線維)を使うことで、肩周りの緊張が緩和され、肩こりの軽減が期待できます。 |
冒頭で触れた「肩甲骨の下方回旋(SDR)」は、まさにこれらの筋肉の機能不全によって引き起こされる姿勢の傾向であり、ウォールスライドはそれを改善するために効果的なエクササイズとして位置づけられます。
論文紹介
The effects of wall slide and sling slide exercises on scapular alignment and pain in subjects with scapular downward rotation
著者:Tae-Ho Kimら
公開日:2016年9月29日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5080198/
内容:肩の痛みを抱える人に対する2種類のエクササイズ効果を比較
対象者
・肩甲骨の下方回旋角度(DRA)が0°未満
・4週間以上に渡って僧帽筋上部に痛みを感じている人
この2点を満たすことで被験者として選択されました。
22名の男性(大学生)が実験に参加。
実験参加者を半数に2種類のエクササイズへ分けられました。
①wall slide exercise(ウォールスライドエクササイズ)11名
②sling slide exercise(スリングスライドエクササイズ)11名
ウォールスライドエクササイズとは、
・壁に向かって足を肩幅に広げて立つ
・肩関節と肘関節を90°に曲げる
・前腕(尺骨)を壁に当てる
・前腕をそのまま上下にスライドさせる
スリング(TRXのような道具)スライドエクササイズとは、
・足を肩幅に広げて立つ
・サスペンションを肘関節の高さに調整
・肘関節を90°に曲げてサスペンションに腕を置く
・体を前方に移動(体重をサスペンションに乗せる)
・ウォールスライドと同様に、肩関節を屈曲していく
実験内容
実験参加者は、エクササイズを4週間(週に3回)実施しました。
・1週目:10回×3セット
・2週目:15回×3セット
・3週目:20回×3セット
・4週目:25回×3セット
結果:ウォールスライドエクササイズが効果的である可能性が発見されました!
実験前後で以下の3点を調査しました。
・肩甲骨のアライメント
・圧痛(デジタルアルゴメーターを使用)
・主観的な痛み数値化(ビジュアルアナログスケールを使用)
【比較した結果】ウォールスライド運動を実施したグループで
◎肩甲骨のアライメント改善
◎僧帽筋上部の圧痛が減少
◎主観的な痛みの数値も改善
以上のような結果が出てきました。
私見まとめ
今記事で紹介した研究で比較されたエクササイズは、
「ウォールスライド」と「スリングスライド」の2種類でした。
結果としては、肩甲骨下方回旋を抱えており肩の痛みを感じている人に対しては、「ウォールスライド」が優れている可能性が示唆されました。
前鋸筋を強く働かせるため、肩甲骨の上方回旋運動に関与するエクササイズとしては
「ウォールスライド」の動きが適していると考えられます。
だからとって「スリングスライド」TRXのようなサスペンションを使用したトレーニングは不要であるということではありません。
当たり前ですが、何をターゲットとして運動を実施するのか?
どんな効果を期待してエクササイズを選択するのか?
こういった点を再認識させられる研究論文だな〜って感じながら記事を書いておりました。
次回の記事では、スリング(サスペンション)を使用した論文をご紹介したいと思います。
肩の痛みには「ダウンドッグ」もおすすめ
水泳選手はたくさん肩を回すから痛めやすい。肩を安定させるための筋肉をしっかり活性化させよう。おすすめはダウンドッグ(Downward Dog)ヨガのポーズ。 pic.twitter.com/7IVVtnMpDe
— 山﨑 裕太(Yamazaki Yuta) (@hari_sports_YY) May 31, 2024

