コンマ数秒を競う競泳において「スタートやターン後の15m通過タイム」は今となっては気にしていない人はいないんではないでしょうか。
その中でも「ブレイクアウト(浮き上がり)フェーズ」に焦点を当ててトレーニングしているスイマーやコーチも増えてきているように感じます。
今記事では、背泳ぎブレイクアウト(浮き上がり)時の「トップアーム技術」と「サイドアーム技術」という2つの動作が15mのパフォーマンスにどのような影響を与えるのかについて考えてみたいと思います。
読者の皆さんに「自分の技術をどう改善すればよいか」を考えるきっかけを提供したい\(^^)/
今記事の問いかけ
- スイマーの皆さんへ
「スタート直後に発揮した最高スピードを維持できていますか?」
「ドルフィンキックで維持したスピードを浮き上がりで無駄にしていませんか?」 - コーチの皆さんへ
「選手のブレイクアウト技術を適切に評価しアドバイスができていますか?」
この記事をきっかけに、ブレイクアウトフェーズにおける「ほんのわずかな違い」がいかに大きな影響をもたらすかを実感できると思います。そしてその改善へのプロセスが、成果につながることをイメージしながら日々の練習に取り組んで欲しいと思います。
研究論文の紹介
題名:The impact of side and top arm techniques during the backstroke breakout phase on 15-meter swimming performance
著者:Zhenyu Jinら
公開日:2025年1月15日
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11748401/
こちらの研究は、背泳ぎのブレイクアウトフェーズで用いられる「トップアーム技術」と「サイドアーム技術」を比較したものです。


以下、論文内容の主要な結果:
① トップアーム技術の優位性
実験に参加した被験者での集団内の比較では、トップアーム技術はサイドアーム技術に比べ、ブレイクアウト時の速度が有意に速いことが確認されました。この速度差は最大で0.2m/s、15mのパフォーマンスにも影響を与えること確認されました。
② ブレイクアウト速度の重要性
ブレイクアウト速度で生まれた通過タイムの違いは、レース全体の勝敗に直結するでしょう。特に競技レベルが上がるほど、コンマ数秒のわずかな差が順位を変動させます。こちらの実験研究では、15m通過パフォーマンスにおいて約0.15~0.19秒の差が確認されました。
③ ドルフィンキックからの移行のスムーズさ
ドルフィンキックによって得られた速度を維持するためには、スムーズなブレイクアウトが欠かせません。トップアーム技術は、ドルフィンキックからの移行をより滑らかに行えるため、「速度低下を最小限に抑える」効果があると考えられます。
考え方のヒント
この記事を読んで、「じゃあ全員トップアーム技術を使えば良いのか?」と思う方もいるでしょう。しかし、実際はそう単純ではありませんね。
個々の選手に適した技術を選ぶ重要性
水泳に限らずですが、運動の技術は選手一人ひとりの体格、筋力、その技術の習熟度に依存します。例えば、回旋動作が得意な選手であればトップアーム技術が有利かもしれませんが、回旋動作が苦手で腕の動きとの連動のイメージが全く湧かない選手には向かないかもしれません。
コーチとして重要なのは、選手個々の特徴をよく観察し、よく対話をし、適切な技術を洗練させていくことでしょう。
練習のヒント
- 映像(動画)を活用:水中カメラで選手のブレイクアウトを撮影し、速度やスムーズさを客観的に評価しましょう。
- ドルフィンキックとの連動性を重視:浮き上がる際、最後のドルフィンキックと最初のストロークを連動させるトレーニングを積むことで、よりスムーズな移行が可能になるでしょう。
私見まとめ
浮き上がり局面は、15m通過タイムのパフォーマンスに大きな影響を与える「見過ごされがちだけど重要な部分」です。技術やその習熟度によって、わずかですが決定的な差が生まれます。
しかし、「トップアーム技術が良い」と一概に言えるわけではありません。
重要なのは、選手の特性を見極め、その特性に合わせた最適な技術を選択することです。そして、その技術を磨くために、日々のトレーニングで何を意識するべきかを明確にすることが求められます。
背泳ぎに限らず、ブレイクアウトフェーズにどれだけの時間と意識を割いていますか?もしこのブログを読んで「まだ足りない」と感じたなら、成長のチャンスです。
水泳技術、まだまだ探究できる余地がありますね\(^^)/
ちなみに、今回紹介した背泳ぎの浮き上がりテクニック「トップアーム技術」を、私は古賀淳也ブレイクアウトと呼んでいます。みんなも動画を探してみてね〜
ミーティングやら撮影やらで、あせあせしている間に、オモロそうな研究論文を見逃すとこだったな。
— 山﨑 裕太(Yamazaki Yuta) (@hari_sports_YY) January 23, 2025
背泳ぎの浮き上がり1かき目を比較した研究。淳也ブレイクアウトの考え方と若干異なるかもだけど、勉強になるわよ。
それにしても中国水泳からの研究オモロいの沢山出てきてるなぁ… pic.twitter.com/hOL0FTH23c