ジュニア期の全国大会で勝つという目標は、多くのジュニア選手やその家族、コーチにとって大きな夢であり、達成したいゴールとなっているように感じます。
大きな大会などで活躍することで注目され、高校や大学への進学や奨学金の可能性も広がるかもしれません。しかし、その夢を追い求める中で、私たちは時に短期的な結果に固執してしまいがち。そして、その結果、子どもたちにとって大切な「未来の可能性」をせばめてしまっているのかも。
いくつかの研究によると、ジュニア期に短期間での成功を目指すような早期専門化は、長期的なパフォーマンスに悪影響を与える可能性があることが明らかになってきています。
このブログでは、なぜジュニア選手が勝つために特化したトレーニングが、将来に向けてマイナスとなる可能性があるのか、そしてより効果的なアプローチについて考えてみたいと思います。
ジュニアスポーツの現場では、選手を大会で優勝させたり上位入賞させたといった表面的なことが、その指導者の実力を評価する"ものさし"となっていることがほとんど。…
— 山﨑 裕太(Yamazaki Yuta) (@hari_sports_YY) April 29, 2024
日本の水泳界の現状について
※主語を大きくしてしまってごめんなさい。。もちろん例外はありますが、多くの現場では以下のようなことが言えるかと思います。
日本では、ジュニアレベル(特に小学生)で、早いうちからの専門化が強く推奨される傾向があるように感じています。全国大会での成績がその後の進学やキャリアに大きな影響を与えるため、コーチや保護者は子どもに早く結果を出すようプレッシャーをかけがちです。しかし、その結果、将来の成長や可能性を犠牲にしてしまうことが少なくないように思います。
水泳のジュニア全国大会においても、早いうちから特定の種目に特化する選手が多く、幼少期から過度なトレーニングをやらされていることが見受けられます。
このようなアプローチは短期的には効果的かもしれませんが、長期的には選手の潜在能力を最大限に引き出すことができないリスクが高まるかもしれません。
早期専門化のデメリット
「早く結果を出させたい!」という気持ちは誰しもが抱くものでしょう。特に小学生の大会に勝つために、特定の泳法に特化したトレーニングを行うことは一見すると理にかなっているように思えます。しかし、そのアプローチには大きなリスクが潜んでいるかも。
まず、子どもの体はまだ成長の途中です。特定の動作にばかり集中することで、身体全体のバランスや柔軟性が損なわれ、ケガのリスクが高まります。さらに、長期的には他の泳法や動作スキルを学ぶ機会を逃し、多様な技術を習得するチャンスを失ってしまいます。これは、長期的に見ると将来にわたる競技生活において大きな制約となりかねません。
また、心理的な負担も無視できない。ジュニア期に過度のプレッシャーをかけることで、燃え尽き症候群や競技への興味や闘争心を失うリスクが高まります。コーチや保護者が過度に結果を重視するあまり、子ども自身が「勝たなければ価値がない」というプレッシャーに押しつぶされ、楽しさや成長の機会を見失ってしまいがち。
研究論文の紹介
以下の研究によると、エリートレベルのスイマーに成長するためには、「最適な技術的および生理学的能力の多様性」が鍵であることがわかっています。この研究では、幼少期に幅広い種目や距離にチャレンジすることが、将来的な国際的な成功に貢献することが示されました。
特定の泳法(種目)に早いうちから特化するのではなく、キャリアの中盤から後半にかけて専門化していくことで、エリートスイマーとして成功する確率が高まるであろうという結果でした。
具体的には、女性スイマーは12歳から、男性スイマーは13歳から、種目の幅を徐々に狭め、19歳(男性は21歳)までに3つの種目に特化するのが理想的であると分析されました。
また、キャリアの最初から1つの種目にのみ集中する選手や、逆に最後まで全ての泳法に取り組み続ける選手は、国際的な成功の確率が低いことも明らかになっています。つまり、長期的な成功を目指すためには、段階的な専門化が最も効果的でしょう。
題名:Variation vs. specialization: the dose-time-effect of technical and physiological variety in the development of elite swimmers
著者:Dennis-Peter Bornら
公開日:2024年2月14日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10865614/
▶︎被験者
・本研究では、4094人の水泳選手(女性2190人、男性1904人)の1,522,803件のレース結果を対象としました。
・それぞれのパフォーマンスタイムを次のように分けて分析した。
(ジュニア初期 [10–14歳])、(ジュニア後期 [15–17歳])、(移行期 [18–20歳])、ピークパフォーマンス年齢(エリート年齢 [21–26歳])
・ピークパフォーマンス年齢で750ポイント以上に到達した水泳選手は国際クラスと見なした。
私見まとめ
ジュニア選手の指導において、我々はどうしても短期的な目先の成功に注目しがちですよね。
しかし、世界的・国際的な成功を目指すためには、長期的な育成視点での成長が何よりも重要。ジュニアの大会での勝利を目指して早いうちから専門化させたり過度なトレーニングをさせることは、選手の可能性をせばめることにつながってしまう。
これからのわれわれ指導者や保護者は、目先の結果にとらわれることなく、子どもたちの長期的な成長を考慮したアプローチを取っていきたいものです。
特に幼少期には、とにかくさまざまな種目や距離にチャレンジしてもらい、自身の身体のことをたくさん知り、適切なタイミングで専門化を進めて、大成してもらいたい!
そのためにもみんなで一緒に考えてこ\(^^)/