アスリートの燃え尽き(バーンアウト)と完璧主義について

燃え尽き・バーンアウト、聞いたことがありますでしょうか?

東京オリンピック2020大会にて、「メンタルヘルス(心の健康状態)」について言及する場面が多々あったように見えました。

競技力を向上させていくためには、長い年月が必要となります。

長期にわたって活動していくためには、競技力を高めるためのトレーニング方法や計画といった直結するような視点だけでなく、メンタルヘルスへも目を向ける必要性を感じるようになってきました。

今記事では、アスリートの「燃え尽き・バーンアウト」と「完璧主義」について考えを巡らせてみたいと思います。

目次

完璧主義的な心配性の人ほど燃え尽き状態になりやすい

アスリートが燃え尽き状態になってしまうのは、なぜか?

ひとつは、高みを目指すアスリートならではの「完璧主義的な」精神にあるのではないかと思います。

実際に、アスリートの燃え尽き状態について調査した研究論文では、以下のような結論も示されています↓

完璧主義が、バーンアウト(燃え尽き)を発生させる一因となっている可能性が示唆された。

Henrik Gustafsson:2017

しかし「完璧主義」の全てが悪いというわけではない

完璧主義を2種類に区別【古典的】

・健全な完璧主義(normal perfectionists)

・神経症的な完璧主義(neurotic perfectionists)

Hamachek:1978

↑こちらの文献によって、完璧主義には”健全なもの”と”病的なもの”に区別するべきだと説明されています。

完璧主義を2種類に区別【現代的】

■健全な完璧主義とは、「完璧主義的な努力」を実施し、「完璧主義的な悩み」から発生する様々な問題(ミスへの恐れ、行動への疑問、高い期待と実際の結果との不一致、自己否定、他者との比較)に、過度に悩まされない人のことである。

■神経症的な完璧主義とは、「完璧主義的な努力」を実施するが、「完璧主義的な悩み」から発生する様々な問題に過度に悩まされる人のことである。

Joachim Stoeber , Kathleen Otto:2006


このように、【完璧主義】は必ずしも悪いもの(否定的な特徴ばかり)ではないことを認識することが重要であると考えられます。

「完璧主義的な努力」・「完璧主義的な悩み」とは?

完璧主義の中身を2種類に区別した場合、「完璧主義的な”努力”」と「完璧主義的な”悩み”」というように分けられます。

それぞれの特徴を表現している論文を以下に引用いたします↓

▼完璧主義的な努力(Perfectionistic strivings)とは、完璧さを求め、先を見越した計画や現実離れした高いパフォーマンス基準を設定することなどです。

▼完璧主義的な悩み(Perfectionistic concerns)とは、自分に対する過度に否定的な評価、高い期待と実際の結果との不一致があると感じること、行動に対する疑問、失敗に対する否定的な反応、他人に認めてもらおうとしたり敏感になったりすること、親や他者からの期待やプレッシャーを過度に感じることなどです。

Jana C. Gäde:2017

燃え尽き(バーンアウト)と、完璧主義的な”努力”と”悩み”

完璧主義は、必ずしも悪いものではない。完璧主義には、2種類に区別ができる。

このようなことが分かりました。

完璧主義を2種類に区別したものと、燃え尽き(バーンアウト)との関係性については以下のように述べられています↓

完璧主義的な”悩み”が、バーンアウト(燃え尽き)の発生が増加する可能性が示唆され、

完璧主義的な”努力”は、バーンアウト(燃え尽き)の発生を増加させない可能性が示唆されました。

Henrik Gustafsson:2017

「燃え尽き」と「うつ状態」に影響を与える心理的な要因

本記事はあくまで、アスリートに認知的な(考える)きっかけを提供することが目的であるため、すでに病名として診断を受けている病気については深掘りいたしません。

アスリートのメンタルヘルスというと、特にテーマとして多く取り上げられるのは「燃え尽き状態」と「うつ状態」ではないでしょうか。

ジュニアアスリートを対象とした「燃え尽き」と「うつ状態」、これらに関係している心理的なストレス要因についてを調査した研究論文があります↓

●ストレス要因は、「燃え尽き」と「うつ」とでは、異なるようである。「うつ状態」は、ストレスの多い活動からの回復の遅れが強く関係しており、「燃え尽き状態」では、高レベルの慢性的なストレスとの関係が強い傾向が見られた。

●また、完璧主義は、うつ状態の発生には影響を及ぼさなかったが、燃え尽き(バーンアウト)発生には有意な影響を示した。

Insa Nixdorf:2020

燃え尽き(バーンアウト)の定義

WHO(世界保健機構)のウェブページ記載によると、以下のように定義されているようです。

“Burn-out is a syndrome conceptualized as resulting from chronic workplace stress that has not been successfully managed. It is characterized by three dimensions:
・feelings of energy depletion or exhaustion;
・increased mental distance from one’s job, or feelings of negativism or cynicism related to one’s job; and
・reduced professional efficacy.
Burn-out refers specifically to phenomena in the occupational context and should not be applied to describe experiences in other areas of life.”

https://www.who.int/より(2021年8月の時点)

燃え尽き(Burnout)は、3つの特徴がみられると記載されています。

①エネルギーの枯渇、および疲労感
②仕事に対する、心の距離が大きくなる。または仕事に対する否定的な感情
③職業上の効力感の低下

以上のような状態が特徴とのこと。

単純に「やる気がない状態」というわけではなく、特定の対象(アスリートならば競技)に対して、上記のような状態を示すことが特徴のようです。

アスリートの燃え尽き状態の測定方法について

Athlete Burnout Questionnaire(ABQ)という質問票を用いて、アスリートを対象とした燃え尽き状態のレベルを測定する方法があります。
Thomas D Raedeke , Alan L Smith:2001

信頼性や妥当性は高いと認められているようですが、アンケートへの回答基準などの課題点はあるようで、まだこれから研究が必要だと結論付けられています。
Henrik Gustafsson:2017

私見まとめ

アスリートが、自身の最高パフォーマンスを発揮するためには、ある程度の長期間は競技に取り組むこととなります。

第一線で長く活躍していくためにも、心の健康状態(メンタルヘルス)はとても重要であるでしょう。

私たちは、考えるという作業をしなければ、基本的に主観だけで物事を判断してしまいがちです。それによって視野が狭くなってしまい、認知をゆがめてしまったりします。

自分自身の心の状態(思考や認知)に耳を傾ける、そしていろんな視点から眺めてみる。そのために知識を獲得する行動をとったり、立ち止まって考える作業に時間を費やしてみたりしてみるのも良いでしょう。

上手くいかないことも多くあるかと思いますが、

アスリートの皆さんが自身のパフォーマンスを最大限に発揮できることを願ってます。

私もそのために、お仕事していけたら良いな。

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