競技スポーツの現場では、トレーニング効果の評価や運動能力向上を図るために、さまざまなバイオマーカーが活用されています。その中でも「乳酸」の測定は、個々の選手の運動強度や体調を把握する上で重要な指標であると考えられています。
現状、スポーツ現場で「乳酸」を測定する場合、血中乳酸を測定することがほとんどであり、数多くの分析された知見も共有されています。しかし血中乳酸の測定には採血の不便性、リアルタイムでのモニタリングの難しさなど悩ましい問題点も多くあるようです。
そこで新たな視点として、汗の中にある乳酸を測定する方法が発展してきました。これからのスポーツパフォーマンスの可能性を広げていくのでしょうか?
そもそも乳酸ってなに?って人は以下の記事も読んでみてね↓
血中乳酸の測定
測定方法
血中乳酸濃度の測定は、採血を行い、その中の乳酸濃度を評価することで行われます。運動後の代謝活動を把握するために広く使用されています。
特徴
数多くの研究蓄積と知見がある
血中乳酸の測定は、数多くの研究と知見が蓄積され、スポーツパフォーマンスの理解とトレーニングの最適化に貢献しています。
血液を侵襲的に出す必要がある
血中乳酸の測定には採血が必要であり、リアルタイムでのモニタリングが難しいという制約があります。つまり運動の最中に測定することは実質的には難しく、運動を中止した際に採血をして測定することとなります。
汗乳酸の測定
測定方法
汗中乳酸の測定は、皮膚表面の汗から乳酸濃度を非侵襲的に評価します。これは測定チップと専用のデバイスを使用して行います。
特徴
リアルタイムなモニタリング
運動中のリアルタイムなモニタリングが可能です。
身体を傷つけない非侵襲的な測定方法
汗乳酸の測定は非侵襲的であり、採血が不要です。
血中乳酸と汗乳酸は相関があるのか?
血中乳酸と汗乳酸の関係についての研究では、運動中における汗中乳酸の変化を視覚的に捉え、乳酸閾値(LT1)と換気性作業閾値(VT1)との相関を調査しました。23名の健康的な被験者と、42名の心血管疾患患者を対象に、運動(エルゴメーターでの漸増負荷テスト)での血中乳酸値および汗中乳酸値を測定しました。
☑その結果、汗中の LT1 は、血液中の LT1 および VT1 と強い相関が見られました。
題名:A novel device for detecting anaerobic threshold using sweat lactate during exercise
著者:Yuta Seki, Daisuke Nakashimaら
公開日:2021年3月2日
https://www.nature.com/articles/s41598-021-84381-9
血中乳酸は、筋肉で産生された乳酸が血液中に移行したものであるのに対し、汗中乳酸は、筋肉で産生された乳酸が汗腺から汗中に分泌されたものである。そのため、血中乳酸と汗中乳酸の濃度には、相関関係は認められるものの、同じでものあるとは考えず、汗乳酸を継続的に測定していく中で変化や新たな知見を生み出していくほうが良さそう。
私見まとめ
汗乳酸の測定は、血中乳酸の測定で蓄積された知見を活かして進化しています。従来は、針を刺して血液を採取する方法が用いられていましたが、近年、ウェアラブルデバイスを用いて、非侵襲的に測定できるようになってきました。
これから汗乳酸の測定技術は、血中乳酸で蓄積された知見を活かして進化していくことが期待されます。さらに、汗乳酸の測定ならではの新たな知見が今後のトレーニング現場のクオリティを向上させていくことにも役立つでしょう。
汗乳酸測定ならではのリアルタイム・モニタリング
例えば、水泳での汗乳酸測定は「おでこ」にチップを当てて、防水テープを貼りシリコンキャップを被るような形をとっています。
汗乳酸測定デバイスの革新的な点は、リアルタイムでモニタリングできることです。これにより、運動中の乳酸値の上下を把握でき、トレーニングや競技において最適化された戦略を立てることが期待されます。
こちらの画像↑は、測定データを出力したものです。
横軸が測定経過時間。縦軸が汗中乳酸値。単位を見ていただくと分かる通り、血中乳酸とは異なる方法で測定しているため乳酸値の測定単位は異なります。なので単純に数値の大きさを比較することはできません。
汗乳酸を測定していく中での事例や今後の期待などは、また別の機会にブログ記事を更新しようと思います。
汗乳酸の測定デバイス
株式会社グレースイメージング
https://www.gr-img.com/
今年は、東京都ベンチャー技術大賞 優秀賞受賞しております。