なぜ同じ練習メニューでも「言うこと」が違うのか?
「同じ練習メニューなのに、コーチによって指導内容が全く違う…」
スポーツの指導現場で、選手がこんな戸惑いを感じることは珍しくありません。実はこれ、コーチ自身が持つ「認知バイアス(思考の偏り)」が大きく影響しています。
自分の過去の成功体験や得意分野という色眼鏡を通して練習を見てしまうことで、いつの間にか「自分の中の正解」だけを選手に押し付けてはいないでしょうか?
本記事では、トレーニング現場に潜む認知バイアスの正体と、それを乗り越えて本質的なコーチングを行うための実践的なステップを解説します。
あなたはどの色眼鏡で見てる?「100m×20本」の捉え方
競泳の現場で伝統的に行われる「100m×20本」という過酷な練習メニュー。
これをどう評価するかは、指導者のバックボーン(認知バイアス)によって見事に分かれます。
生理学派のコーチ
「これはミトコンドリアを刺激し、有酸素性持久力を鍛え上げるための練習だ!」
心理学派のコーチ
「限界の状況でやり抜く力を育て、困難を乗り越える精神を作る絶好の機会だ!」
運動学(バイメカ)派のコーチ
「疲労下でもストローク長を保ち、テンポをコントロールする技術習得の場だ!」
何も考えていないコーチ
「おっしゃー!気合いで乗り切れ!ヒイヒイ言わせてやるぜ!」
さて、どれが正解でしょうか?
実は、どれも「その側面においては」正解ですね。
しかし同時に「全体の一部しか見ていない」という点で偏っています。自分の専門性という認知バイアスが、練習の多角的な目的を盲目にさせてしまう典型的な例です。
認知バイアスは「悪」ではない。大切なのは「自覚」
認知バイアスと聞くと「排除すべき悪いもの」と思われがちですが、それ自体に良し悪しはありません。人間である以上、思い込みや先入観を持つのは自然なことです。
現場で問題となるのは、バイアスを持つことではなく、「自分の視点こそが唯一の正解だと思い込み、他者に押し付けてしまうこと」です。
目的(選手の競技力向上)を見失い、部分的な正しさを振りかざすことは、選手の可能性を狭めることにつながります。指導者に求められるのは、「自分も認知バイアスを持っている」という前提に立ち、多角的にアプローチする柔軟性です。
思考の罠から抜け出す!現場で使える4つのステップ
では、自身の認知バイアスによるデメリットを回避し、より良いトレーニング設計を行うにはどうすれば良いのでしょうか。以下の4つのステップをおすすめします。
Step 1. 自覚する(自分のフィルターを知る)
まずは「自分はどの分野(筋力、技術、メンタルなど)に偏って物事を見がちか」を客観的に認識しましょう。自分の得意な”色眼鏡”を知ることが第一歩です。
Step 2. 他の意見や情報を収集する
自分とは異なる専門性を持つコーチやトレーナーの意見に耳を傾けましょう。時には選手自身の感覚をヒアリングすることも、凝り固まった視点を壊す強力なきっかけになります。
Step 3. 「考える時間」を作る
情報を得たら、すぐに反応するのではなく、1人で深く思考する時間を確保してください。情報の波から離れ、目の前の選手にとって「今、本当に必要な要素は何か?」を問い直す空白の時間が、指導の質を決定づけます。
Step 4. 確信はなくても、より良い「仮説」を実行する
スポーツ指導に100%の正解はありません。多角的に考えた上で、「現時点で最も合理的だと思える仮説」を立て、思い切って実行する。そして結果を検証してまた修正していく。この繰り返ししかありません。
おわりに:直感と思考のバランス
盲目的になりがちな「評価や判断」に対して、一度立ち止まり、多様な視点からアプローチする。それは非常にエネルギーのいる作業ですが、指導者自身が学び、考える姿勢を見せることこそが、選手を真の成長へと導く道です。
たまには直感だけで決めてしまう日があっても良いでしょう。しかし、基本となる「多角的な思考プロセス」を持つことで、あなたのコーチングは確実に一段階上のレベルへと引き上げられるはずです。

