競泳の練習は、同じ泳ぎでも距離や運動強度によって体内の反応が大きく変わります。
今回は、「50m全力スプリント×2本」を実施した際の「乳酸値の動き」について考察していきます。
実験では、日本選手権に出場するレベルの選手たちが、50m全力スプリントを2回泳ぎました。1本目を泳ぎ終えた後に5分の休憩を取りました。その結果、50m専門種目の選手と200m専門種目の選手たちとで、乳酸値の動きに明らかな違いが見られました。
50m短距離選手は、1本目の泳ぎで体内の乳酸値が大幅に上昇し、5分の休憩中にほとんど下がらないまま2本目に突入しました。
一方、200mの中距離選手は、1本目の後に上昇した乳酸値が早く低下し、2本目をスタートすることができました。
この結果から、どのようなことがわかるのでしょうか?一緒に考えてみましょう。
※乳酸についての前提知識はこちら↓


実験内容
- ウォーミングアップ20分間
- 50m全力スプリントを1本泳ぐ
- 5分のインターバルを取る
- 50m全力スプリントをもう1本泳ぐ
この実験において、日本選手権出場レベル以上の選手2名を対象に、汗乳酸測定デバイスを使用した常時モニタリングで変化を観察しました。
結果
泳いだタイム
▶︎50m専門種目の選手:1本目は50mベストタイムの90%で泳いだが、2本目は50mベストタイムの86%だった。
▶︎200m専門種目の選手:1本目2本目ともに50mベストタイムの89%だった。
汗乳酸値の動き
✅50m専門種目の選手:1本目を泳ぎ終えた後、汗乳酸値が急激に上昇し、5分のインターバルでは乳酸値があまり下がらず(約3分の1ほど低下し)、そのまま2本目に突入しました。
✅200m専門種目の選手:1本目を泳ぎ終えた後、汗乳酸値が上昇し、早く低下していき、3分後の時点では開始前と同じくらいの値に戻り、2本目に突入していきました。

(縦軸)汗乳酸値 / (横軸)時間
※黄色点はスプリント開始30秒前
考察
▶︎200m種目の選手の乳酸クリアランス能力の重要性
中距離種目を専門とする選手は、短距離種目を専門とする選手と比べて、乳酸をクリアランスする能力が高いことが示されました。
高強度の運動により生成された乳酸が蓄積することはパフォーマンスの低下と関連するため、これを速やかに緩衝(クリアランス)する能力は非常に重要です。
したがって、200m種目の選手は乳酸クリアランス能力をさらに高めるようなトレーニングを取り入れることが有益であると考えられます。
▶︎スプリント種目の選手の乳酸生成能力
今回実験に参加した短距離選手は、1本目で乳酸が十分に生成され、その後の5分間ではほとんどクリアランスが行われないことが分かりました。
スプリント種目では短時間での爆発的なパフォーマンスが求められるため、乳酸を効果的に生成することが重要です。そのため、スプリント選手は乳酸生成を意識した高強度トレーニングを繰り返し行うことが重要であると言えます。
まとめ
今回の実験から、競技種目によって求められる乳酸クリアランス能力には違いがあることが明らかになりました。
200mのような持久力を要する種目では乳酸クリアランス能力の向上が、50mのようなスプリント種目では乳酸生成能力の向上が求められます。
みなさんそれぞれの競技種目に合わせたトレーニングを行い、パフォーマンスの最大化を目指しましょう\(^^)/