「チューブ(ゴム)を引っ張って泳ぐ練習」と聞いて、みなさんはどんなイメージを持ちますか?
プールで繋がれたゴムを引っ張りながら、顔を真っ赤にしてガシガシ泳ぐ。 パワーをつけるための筋トレ! 根性練習!そんなイメージが強いのではないでしょうか。
実際、競泳の現場では「レジスト(抵抗)トレーニング」として、パワー向上のために導入されることがほとんどな気がします。しかし、もしこのチューブを使った練習が、パワーアップだけでなく、「テクニック(技術)」を劇的に向上させるための繊細なツールだとしたらどうでしょう?「力任せに引っ張るだけがチューブ練習じゃないの?」
そう思ったあなたにこそ、読んでほしい記事です。 今記事では「技術練習としてのレジストチューブ」の可能性について、考えてみたいと思います。
いつものように、「なんとなく」やっている練習に「なぜ?」という問いを立てて、本質に迫っていきましょう\(^^)/
レジストチューブは「筋トレ」じゃない?
多くのスイマーやコーチは、レジストチューブを「陸上のベンチプレス」のような感覚で捉えていることが多いように感じます。 負荷をかけて、強く引く。それによって筋出力を上げる。もちろん、その効果がある可能性は否定しませんし、スプリント能力向上には有効な手段の一つなのかもしれません。
しかし、道具というのは使い手と目的次第で、まったく別の価値を生み出します。
パワーをつけるためではなく、泳ぎを整えるためにチューブを使う。 この視点は、伸び悩んでいる選手や、フォームが定まらないジュニア選手にとって、ヒントになるかもしれません。

研究論文の紹介:8週間の技術的チューブトレーニングの効果
題名:Effect of an 8-week technical tethered swimming program on front kinematics in adolescent swimmers
著者:Maciej Skorulskiら
公開日:2025年11月7日
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12594829/
論文結論:体のブレ(Yaw)とローリング(Roll)が改善され、泳ぎが安定した
✅ チューブを使った技術練習を行ったグループは、行わなかったグループに比べて、Yaw rotation(左右へのブレ)とBody roll(体の回転) の制御能力が有意に向上した。
✅ 特に、横方向への無駄な加速(ブレ)が減少し、より経済的で安定した泳ぎになったことが示唆された。
✅ ただし、8週間の介入直後の50m全力泳のタイムには、有意な向上は見られなかった。
論文内容:ジュニア選手を対象に「低強度」で実施
<参加者>
– 13歳の競泳選手39名(男子20名、女子19名)。
– 実験群(TTS実施)と対照群(通常の技術練習)にランダムに振り分けられました。
<実験期間と頻度>
– 8週間のトレーニングサイクル。
– 技術的チューブ水泳練習は週に1回、45分間実施されました。
<トレーニング内容>
– 「低強度」 で実施されています。
メニュー例:10ストローク×6回を、シュノーケルを着用して実施。
– 意識するポイント:
◦ ストローク長を意識する。
◦ 意図的にゆっくり動かす。
◦ 体幹を安定させ、左右のブレを減らす。
◦ 強度は有酸素性閾値以下(心拍数150bpm以下)に抑える。
つまり、ガシガシ引っ張るのではなく、「ゴムに繋がれた状態で、いかにブレずに、丁寧に泳ぐか」 にフォーカスした練習。

私見まとめ
チューブを「センサー」として使おう
レジストチューブを「パワー養成ギプス」としてだけ使うのはもったいないです。チューブは「自分の泳ぎの欠点を拡大して見せてくれる装置」として非常に優秀かもだね。
レジストチューブは前に進まない分、バランスの崩れがダイレクトに体に伝わります。
「あ、今右手が外に逃げたな」
「左のキャッチで腰が抜けたな」
そういった微細な感覚(エラー)を感じ取るための 「感覚入力トレーニング」 として、チューブを活用してみてはどうでしょう。
あえて力を抜いて、ゆっくり泳ぐ。 その中で、グラグラしない一点を探す。 この「探る作業」こそが、センスと呼ばれるものを磨く工程になるかもだよ。
「低強度」の価値を見直す
「量より質」という言葉がありますが、質を高めるためには、時に強度を落とす必要があります。
ゼーハー言いながら必死に泳いでいるとき、そんな状態で繊細な技術修正なんてできません。脳に余裕がある状態で、あえて不安定な環境(チューブ)を作り出し、課題に取り組ませる。このアプローチは、運動学習の観点からも非常に理にかなっているかもだね。
ジュニア期こそ「感覚」を育てる
ジュニア期は、身長が伸び、手足が長くなり、自分の体を操る感覚に苦しむ時期でもあります。
だからこそ、単に筋力で解決するのではなく、「自分の体がどうなっているかを感じ取る能力(固有受容感覚)」 を養うトレーニングが必要でしょう。
チューブに繋がれて、進まない中で、水と対話する。そういう地味な時間が、将来シニアになったときの「崩れない土台」を作るのかもしれませんね。
左右差へのアプローチ
チューブ練習は「左右差の矯正」に役立つ可能性があります。
特に、呼吸をしない側の手(多くの選手にとっての左手)のコントロールが甘くなりがちです。
チューブで泳ぐ際、「呼吸動作中に体がねじれていないか?」「キャッチの瞬間に腰が流れていないか?」をチェックしてみましょう。シュノーケルを併用して、呼吸動作を排除した状態で左右の出力バランスを整えるのも良い戦略です。

最後に:道具に使われるな、道具を使いこなそう
「〇〇を使えば速くなる」 そんな魔法の道具はありませんよねぇ。レジストチューブも、ただ漫然と引っ張っているだけでは、変な癖を固めるだけの道具になりかねません。
「何のために、その道具を使うのか?」
今回は「技術向上(安定性・ボディバランス)」という目的での活用法を紹介しました。もちろん、「パワー向上」を目的にガシガシ引く日があっても良いでしょう。
大切なのは、その日の練習の「意図」を明確にすることです。
「今日はパワー!」と決めたら、フォームが多少崩れても出力を出し切る。 「今日はテクニック!」と決めたら、強度は落としてでも、1ミリのブレも許さない集中力で泳ぐ。
同じ道具でも、意識一つで得られる果実は変わります。思考停止で道具に頼るのではなく、「どう使えば自分の課題解決に繋がるか」 を考え抜くこと。それこそが、トップアスリートへの近道なのかも。
みんなで、賢く、強くなっていこー。

