東京オリンピック2020競泳競技が先日、終了しました。とても楽しくかつワクワクさせていただきました。
出場された選手やスタッフの皆様、関係者の皆様、ありがとうございました。
個人的に一番熱くなったレースはもちろん男子200mバタフライなのですが…。アメリカ代表のドレセル選手、スタート局面に目を奪われましたねぇ。飛び込んでから15m通過までの速さと言ったらまぁ。
飛び込み動作から入水までの飛距離やら空中にいる速度やら、着目する点は多々あるようですが
テレビで見た感じ、そこまで大きな違いは分かりません。しかし、15m付近での浮き上がったときにはビックリ。体半個分くらい前に出ています。なぜでしょうか。
競泳は、陸上スポーツと違って「抵抗」が大きな問題となります。
今記事では、「水深」による抵抗値の違いについて研究された論文をご紹介したいと思います。
論文紹介
題名:How does drag affect the underwater phase of a swimming start?
著者:Elaine Torら
公開日:2014年8月18日
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25134424/
論文結論(主な部分を抜粋)
✅すべての水深で、速度が高まるにつれて、合計抵抗も大きくなることが確認されました。
✅水深50cmでは、速度によらず、水面牽引と比べて造波抵抗の影響は約70~80%低かったことが確認されました。
✅水深100cmでは、速度によらず、造波抵抗の影響が「ほとんど」無いことが確認されました。
✅速度1.6m/sでは、どの水深でも合計抵抗に大きな違いは僅かである。速度1.9m/sを超えると、水面条件で造波抵抗の影響が明らかに大きくなっていた。
論文内容:人間を牽引機で引っ張り、抵抗値を測定しました。
<参加者>
■合計16名の水泳選手(男性11名/女性5名)平均年齢20歳
■参加者は少なくとも5年以上の競技経験がありました。16名のうち、3名がオリンピック代表選手、2名が世界選手権代表選手でした。
<実験方法>
■短水路25m(水深3m)プールで、ダイナモメーターによる牽引を行いました。
■牽引は、ロープを人間が指に絡ませた状態で制御しながら実施。ストリームライン姿勢での測定となりました。
■3パターンの水深(①「0m(水面)」、②「50cm」、③「100cm」)
■4パターンの速度(①「1.6m/s」、②「1.9m/s」、③「2.0m/s」、④「2.5m/s」)
<抵抗の測定>
■合計抵抗は、ダイナモメーターからの情報によって処理計算されました。
■造波抵抗は、4つの音響センサー情報から処理計算されました。
私見まとめ
同じ速度で進んでいても、水深位置によって「抵抗の大きさ」が変わることが分かりました。
さらにその「抵抗の大きさ」は、水深の浅い位置では、速度が上がるほどに伴って大きくなることも分かりました。
浅い位置というのは、紹介した論文では「水深100cm」<「水深50cm」<「水深0cm」このように抵抗が大きくなるようです。
しかし、「速度1.6m/s」では、水深の位置の影響が少ないようでした。
これは飛び込み後の水中局面でも、ターン後の水中局面でも応用して実践できるものと思われます。
ターン局面がレースの勝敗を決めたりすることも指摘されています。
(No.165 泳ぎの練習も大切だけど、壁を蹴る練習も大切だよ【競泳レース分析】)
浮き上がりでモタモタするな
スタート後・ターン後は、抵抗を減らして速く前に進むために「水深」という視点を加えることが大切でしょう。
水深が浅くなるほどに造波抵抗が増して、合計の抵抗値が高まっていきます。
なので、スタート・ターン後から浮き上がりの1かきへ向かうプロセスは、多くの選手で再考の価値ありだと思います。トップ選手の多くは当然のように実践していると思われますが。
浮き上がり直前にバタ足は遅くなっちゃう?
浮き上がり動作では、(ドルフィン5回+バタ足6回)条件よりも(ドルフィンキック5回のみ)条件のほうが速いよ。というような研究もあります。
(Tsuyoshi Takeda氏ら:2020)
バタ足かドルフィンか?という動作もそうですが、水深も大いに関係してそうですね〜。
水深の位置を確認するには、やっぱり水中映像を撮影するしかないよねぇ〜
筆者は、GoPro Hero12を使っています。映像のスムーズさも素晴らしくて、とてもおすすめ。