No.185 運動で発生する「乳酸」の歴史(いつから悪者扱いされてきたのか?)

生理学

アスリートのトレーニング現場では、「乳酸」というワードが頻繁に出てきます。

少し前までは、「乳酸=疲労物質」という考えが一般的でした。しかし、21世紀に入ってから乳酸は疲労物質ではなく運動に良い影響を与えるものという証拠が広く知れ渡ってきています。

今記事では、乳酸の歴史のようなものを書き出していきたいと思います。

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乳酸(運動生理学)の歴史まとめ

■1800年代~

乳酸と筋肉の関係性が示される

「狩りをした鹿の筋肉」から、乳酸の濃度が高いことが発見される。

■1900年代~

乳酸の代謝経路が多く研究される

「カエルの骨格筋」で、乳酸の蓄積が発見される。その乳酸は、酸素の多い環境では”消失”することが確認された。

乳酸は、糖(グリコーゲン)から作られ、筋収縮活動の直接的なエネルギーであることが示された。

(後に誤りであったことが分かり、撤回された)

■1920~1970年代

乳酸は疲労の原因説

乳酸の蓄積は、筋肉疲労や痛みなどの原因となる「廃棄物」であるとする考えが一般的に広がった。

■1980年代

乳酸シャトル説(乳酸は体内を行き来する説)

乳酸は、筋肉・心臓・脳においてエネルギーとして利用される物質であるという現在の基となる学説が発表された。

■2000年代

乳酸は友達かも

乳酸を体内に注入したら、運動エネルギーとして利用されたという研究が発表される。このあたりから「乳酸は疲労物質ではない」という理解が少しずつ広がりを見せていく。

乳酸が最初に発見されたのは

■1780年

スウェーデンの化学者であるKarl Wilhelm Scheele氏によって、発見された。

「サワーミルク」の中から乳酸を見つけ出したとされている。

参考文献(E. J. O. Kompanjeら:2007

筋肉の活動量が増えると、乳酸も増えるのではないかと報告されたのは

■1807年

Berzelius氏によって示された。

鹿が狩りをしたあとの筋肉中では、乳酸濃度が上昇していることが分かった。

参考文献 (Brian S Ferguson:2018

乳酸は、糖(グリコーゲン)から作られると分かったのは

■1845年

Hermann von Helmholt氏によって示された。

糖(グリコーゲン)から、乳酸が生成されることを報告した。

参考文献 (Brian S Ferguson:2018

「高い乳酸値は、酸素の不足を示す」と説明したのは

■1861年

Louis Pasteur氏によって示された。

糖1グラム当たりの酵母の増殖が、嫌気性条件よりも好気性条件の方がはるかに大きいことを報告した。

参考文献 (Louis Pasteur:1861)(Brian S Ferguson:2018

骨格筋の中における”好気的解糖と嫌気的解糖”を説明したのは

■1907年

W. M. Fletcher氏とF. Gowland Hopkins氏によって発見。

「カエル」の骨格筋において、乳酸が蓄積することが報告された。

さらに、疲労して乳酸が蓄積した筋肉を、酸素の豊富な環境にすると、乳酸は消失することが分かった。

参考文献 (W. M. Fletcher & F. Gowland Hopkins:1907

乳酸は筋収縮メカニズムにおいて重要な役割を担っている

■1922年

Otto Meyerhof氏は、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

受賞の理由は、「酸素の消費と筋肉内における乳酸の代謝との間に一定の関係があることを発見したこと」

ノーベル賞の受賞とは別に、Meyerhof氏は「筋収縮には乳酸が必要である」と考えていたようである。この考えは後に撤回されて、さらなるエネルギー代謝理解への発展するきっかけとなったようす。

参考文献 (O Meyerhof:1927)(Nobel Prize Outreach AB 2021

乳酸の生成を阻止しても、筋肉の収縮は阻止されない!

■1930年

Lundsgaard氏によって、「乳酸の存在に関係なく、筋収縮活動は発生する」ということが分かった。

筋収縮のエネルギーは、ホスファゲンの分解から発生する。乳酸は関与せずとも、ホスファゲンの再合成は好気性で発生する。と主張された。

参考文献 (Brian Glancy:2020

ノーベル賞の受賞者であるマイヤーホフ氏、自身の主張の一部を撤回し、さらなる高みへ

■1940年代

Otto Meyerhof氏らの研究グループによって、「解糖系」の代謝経路が明らかにされたとされている。

(エムデン-マイヤーホフ経路)と呼ばれることもある。

・好気的な解糖の代謝物:【ピルビン酸】
・嫌気的な解糖の代謝物:【乳酸】

参考文献 (Matthew J. Rogatzkiら:2015

乳酸は体内を循環する(乳酸シャトル説)

■1984年

George Brooks氏により、「乳酸シャトル(lactate shuttle)」が発表された。

乳酸は、組織や細胞間を運ばれることを示した。

参考文献(George A. Brooks:2020)(L B Gladden:2004

乳酸を体内に注入したら運動エネルギーとして利用された

■2002年

Benjamin F Miller氏らの研究発表

人間での実験。乳酸を静脈から注入したところ、運動のエネルギーとして利用されたことが示唆された。

この実験以前では動物でも同様の結果が得られている。

参考文献(Benjamin F Miller:2002)(L B Gladden:1991

私見まとめ

乳酸(Lactate)の歴史のようなものをまとめてみました。興味や学びのきっかけなんかになれたら嬉しく思います。

乳酸の役割として研究で示唆されていること

■ミトコンドリアの増殖に関与する

■毛細血管の新生を刺激する

■筋肉の収縮活動エネルギーに利用される

■筋活動において発生した炎症を抑制する

乳酸関係ないけど記事書いてて思ったこと

■相関関係は因果関係とは違うんやで。でも、権威ある先生でも間違ったりすることもあるんや。

■一部が間違っているからと言って、全部が間違っているかのように拡大解釈するのはやめとき。

■筋肉の活動エネルギー供給システムは複雑なの。乳酸おもろいけど拡大解釈するのはやめとき。

耐乳酸トレーニングという名前について

“乳酸は疲労物質ではない。だから乳酸に耐えるなんていうトレーニングは無い。耐乳酸なんてワードを使っている奴は今すぐやめろ。”

このような論調ありますよね。耐乳酸的なトレーニングについて、少し考えてみたいと思います。

乳酸をたくさん生成するトレーニングとは

耐乳酸と呼ばれるトレーニングは、乳酸を多く発生させるようなトレーニングを指すと思います。

それは、「運動強度の高さ」と「運動量(時間)」の両方が大きな数字になるようなトレーニングでしょう。

そのようなトレーニングに対して、活乳酸とか使乳酸とかが適切なワードなのか?難しいところである。

しかし、「高強度トレーニング」というワードを使っているだけでは、エネルギー供給システムに興味が向かないかもしれない。

なので私が説明するときは、耐乳酸的な一連のトレーニングに対して「乳酸リサイクル」というワードを使ったりする。

基本的には、乳酸を発生させるような高強度トレーニングをしてから、アクティブレストを追加する。そんなストーリー仕立て。

余談

乳酸に関する研究論文をたくさん読んだ1週間でした。

主に、歴史をまとめて理解するために時間を費やしたが、感じたことがひとつあります。

「歴史は語り手によって異なる」ということ。

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