たびたび話題に上がる、腹圧や腹部の操作意識について。
腹圧が大事!とか、ドローインやれ!とか、ドローインは意味ない!とか、ブレーシング最強!とか、腹に意識なんて必要ない!とか、色んなこと言う人がいます。
今記事では、腹圧やドローインやブレーシングなどの用語を整理し、それぞれを取り入れた際の短期的な効果で分かっていることを提示し、水泳パフォーマンスに取り入れる場合の示唆のようなものを考えてみたい。
まずは用語の整理
腹圧(腹腔内圧)
✅お腹の中の圧力を指します。
▼腹腔内圧は、脊柱の安定性と剛性を高める上で重要な役割を果たすと考えられる。
▼さらに、大きな力を発揮するような運動パフォーマンス時における重要な要因でもある。
・英語では、intra-abdominal pressure (IAP)
測定方法は、お尻の穴から15cmほど入ったところの直腸へ圧力測定器を侵入させて実施することもあるようです。私のような一般人は今後も測定することは無さそうです…
ドローイン
✅おへそを腰椎の方に引き寄せる運動。スタビライゼーション運動の一種。
▼腰の過度の前弯と骨盤の前傾を防ぐのに役立つ。
・英語では、Draw-in
文献(特に英語圏)によっては、ホローイング(Hollowing)と記述されているものも多いです。同義であると考えられます。日本ではドローインのほうが一般的であるような気がします。
ブレーシング
✅腹部を外側に押し返すようにする運動。スタビライゼーション運動の一種。
▼脊柱全体の安定性向上し、腰椎の動きが抑制される。
・英語では、Bracing
ブレーシングとドローインについて調査した研究論文
体幹部の安定性を調査
✅体幹部の安定性は、ブレーシングが最も高く、次いでホローイング(ドローイン)が高く、最も安定性が低かったのは安静条件であった。
(2008:Tasha Stanton, Greg Kawchuk)
腹腔内圧(IAP)の違いを調査
✅腹腔内圧(IAP)は、ブレーシングのほうが、ホローイング(ドローイン)に比べて高かった。
しかし、体幹部の筋活動レベルの差が、腹腔内圧(IAP)の差に起因するわけでは無かった。
筋活動のタイミングを調査
✅ブレーシングでは、腹部表層筋と深層筋の共収縮が見られた。
✅ドローインでは、腹横筋の活性化タイミングが一番早く、その後に内腹斜筋・外腹斜筋・腹直筋の活性が見られた。
水泳動作に示唆を与えてくれる論文
肩の素早い動きにおける体幹深層筋の筋電図(EMG)活動を測定
✅肩を素早く動かそうとする際、体幹深層筋のフィードフォワード活性化は運動に重要な役割を果たす
ブレーシング・トレーニングを取り入れることによって筋力向上に貢献するかどうかを調査
✅ブレーシングをトレーニングに取りいれることによって、股関節伸展および体幹部の筋力向上に貢献する可能性が見られた。
様々なレジスタンス運動での腹腔内圧(IAP)や胸腔内圧(ITP)を調査
✅調査したトレーニング種目の中で、腹腔内圧(IAP)はスクワットが最も高く、ベンチプレスが最も低かった。
レッグプルフロント時の体幹筋の筋電図(EMG)活動と骨盤の回転角度に及ぼすホローイング(ドローイン)とブレーシングの影響を調査
✅レッグプルフロント中の腹横筋と内腹斜筋の活動を高めるには、ホローイング(ドローイン)がブレーシングよりも効果的であることが示唆された。
✅レッグプルフロント時の骨盤の回転を抑制するには、ブレーシングがホローイングよりも効果的であることが示唆された。
(2022:Eun-Joo Jung , Jae-Seop Oh)
私見まとめ
なんとなく知っているような気になっていた腹圧。
今記事を通して少しでも理解が進み、あらたな探求心がムクムクと湧き上がってきたら嬉しいですw
実際にトップアスリートの声を聞いてみると、「ブレーシングを意識しているよ」とか「ドローインしてる」とか「腹に意識なんて持ってないよ」と様々なものがあります。
各個人によって、必要な段階が異なるのだと思います。
今までブレーシングなんてやったこともなかった選手が取り入れてみたらわずかに速くなるかもしれませんし、意識が向かい過ぎてほかの動作が疎かになって遅くなるかもしれません。
より上を目指すなら、短期的な視点と長期的な視点の両方でトレーニングやパフォーマンスを見ていく必要があるでしょう。
泳動作で腹腔内圧を高めたほうがいいんじゃないかと考えさせられるケース
ブレーシングやドローインって、やってみると分かりますが、強くやろうと思えば思うほどに長く保てません…。
ですので、運動時間すなわち距離や種目特性によってアレンジしていく必要があるでしょう。
