【ブロックピリオダイゼーション】持久系アスリートのトレーニング計画に有効なのか?

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競技者のトレーニングプログラムを作成している現場の指導者として、効率よくパフォーマンスを向上させられるようなものを提供していきたい。

そのために考案されてきたトレーニング計画の手法として【ピリオダイゼーション】というものがあります。

前記事では、レジスタンストレーニングによる「筋力向上と筋肥大」を目指したトレーニング計画(ピリオダイゼーション)について書きました。

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今記事では、持久系パフォーマンスに効率的かつ効果が大きいのではないかと言われている【ブロック・ピリオダイゼーション】について紹介していきたいと思います。

Knut Sindre Mølmenら:2019

私自身への備忘録的な内容ともなっております。誰かのお役に立てたならば幸いです。

目次

ブロック・ピリオダイゼーションとは

従来のトレーニング周期(年間を通して多数のトレーニング刺激を同時に配分する手法)に対して、より効率的なトレーニング周期であると代替案となるものが「ブロック・ピリオダイゼーション」として提示されてきています。

Stone, Michael Hら:2021

ブロックを3つに分けて考える手法

ブロックピリオダイゼーションを体系的に発展させてきたイスリン(Issurin)という研究者によると、

3つのブロックをそれぞれ2~4週間で分けて集中的に能力向上に取り組んでいく手法であると言います。

Vladimir B Issurin:2016

以下、3つのブロックとなります↓

①蓄積(accumulation)ブロック

基礎的な体力(有酸素性持久力・筋力・協調性など)向上を目指すブロック

②転換(transmutation)ブロック

スポーツ特有の能力(無酸素性持久力・筋持久力・競技テクニック)向上を目指すブロック

③実現(realization)ブロック

競技会に向けて回復およびピークを持ってくることを目指すブロック

ブロックピリオダイゼーションを導入するうえで大切にしたい考え

集中負荷(concentrated load)

従来型(多数の能力を並行して向上させようとする)トレーニングプログラムに対し、ブロックピリオダイゼーションでは、狙いとする能力を区別しながら向上させることを目指します。

残存効果(residual effects)

トレーニングプログラムの終了後、一定期間が経過しても身体状態や運動能力が維持されることを意味します。

複数の能力を高めていく必要のある競技者にとって、重要な考えとなります。

ものすごくざっくり言うと「easy come , easy go」です。つまり、得やすいものは失いやすい。

しかし、トレーニング中止後の残存効果は、選手の年齢・トレーニングレベル・中止前までの総負荷量などによって異なるようです。

メタ分析が出てくるのを指をくわえて待ちたいと思います。

最近のトレーニング中止(detraining)に関する論文をいくつかご紹介

▼トレーニングシーズン中の持久系アスリートを対象に、2週間のトレーニング中止期間を設けた。中止期間後、最大酸素摂取量・最大心拍一回拍出量・等速性膝伸展筋力の明らかな低下が見られた。しかし、等速性膝屈筋力および筋持久力(膝伸展と屈曲の持久力)の低下は見られなかった。
<15名の男性ランナー・少なくとも3年以上の競技トレーニング経験を持つ集団・平均年齢21歳>
Yun-Tsung Chenら:2021

▼8週間の同時トレーニング(筋トレ&ランニングトレーニング)後、4週間のトレーニング中止期間を設けた。この4週間は筋力トレーニングのみ休止し、ランニングトレーニングは継続して実施した。同時トレーニングによって向上した3000mトライアル・ランニングのエネルギーコストは、トレーニング中止期間後も低下は見られなかった。むしろ、3000mトライアルはトレーニング中止後のほうが速くなる傾向が見られた。
<8名の男性ランナー・8週間のコンカレントトレーニング介入(週3回のラン練習と週1回の筋トレ)>
Nicolas Berrymanら:2020

▼12週間の筋肥大レジスタンストレーニング後、3週間のトレーニング中止期間を設けた。最大筋力・筋肉厚・CMJ・スプリント走・メディシンボール投げの距離などは中止期間後も低下は見られなかった。
<21名の男性(15-18歳)・12週間のトレーニング介入(週3回の筋肥大レジスタンストレーニング)>
SIMON GAVANDAら:2020

▼4週間の筋力向上トレーニング後、下半身の最大筋力(等尺性スクワット)はトレーニング中止から5日後も維持された。上半身の最大筋力(等尺性ベンチプレス)はトレーニング中止3日後は維持されたが、5日後はわずかに低下していた。
<19名の競技者・4週間のトレーニング介入(週3日の筋力向上トレーニング)>
S Kyle Travisら:2022

残存効果をテーマに”最も”紹介されているのではないかと思われる文献

Vladimir B Issurin:2008)の文献によると、残存効果は以下のような日数であるとされている↓

・有酸素性持久力(Aerobic endurance):30±5 days
・最大筋力(Maximal strength):30±5 days
・無酸素性持久力(Anaerobic glycolitic endurance):18±4 days
・筋持久力(Strength endurance):15±5 days
・最大スピード(Maximal speed “alactic”):5±3 days

上記はおおよその参考になるが、近年のdetraining調査に関する文献とは異なるようにも感じられる部分も出てきている様子。最終的にトレーニングは個別性に依存するので参考までに。

ブロックの順序(シーケンス)

狙ったパフォーマンスを発揮する日程から「逆算」して、ブロックピリオダイゼーションを組んでいきます。

その際に、どのような順序でブロックを組むか?という点について。

当然ですが、選手の競技歴やそこに至るまでのトレーニング状況などを考慮するべきでしょう。

基本的な考えとしては、前記した「残存効果」から考えをスタートすると良いでしょう。

つまり、充分に向上させるには時間がかかるが比較的容易に取り組める「有酸素性の持久力」と「筋肥大」を高めるようなトレーニングプログラムを最初のブロックとして配置するケースが多いです。

Vladimir B Issurin:2019

同時トレーニングの干渉

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ブロックピリオダイゼーションの研究をいくつかご紹介

▼ブロックピリオダイゼーションと起伏性ピリオダイゼーションは、筋肥大・筋力・運動パフォーマンスに対して同等の効果がありました。
<21名の青年男性による12週間のトレーニング介入実験>
SIMON GAVANDAら:2020

▼VO2maxの向上には、ブロックトレーニングプログラムよりもポラライズドトレーニングプログラムの方が効果的であることが示唆されました。
<20名の自転車競技者による8週間のトレーニング介入実験>
Paulina Hebiszら:2021

▼ブロックピリオダイゼーションと従来型(MIT:中強度トレーニングを含む)ピリオダイゼーションは、自転車タイムトライアル・筋タンパク質量・酵素活性に対して同等の効果が確認されました。
<30名の自転車競技者と愛好家による4週間および12週間のトレーニング介入実験>
-(差があった生理学的所見):RBCV(赤血球容積)とCD(毛細血管密度)はブロックピリオダイゼーションにおいて従来型よりも増加が見られた。タイプⅠ型線維の毛細血管は従来型ピリオダイゼーションにおいてブロックよりも増加が見られた。
Nicki Winfield Almquistら:2022

私見まとめ

今記事では、ブロックピリオダイゼーションについての説明をしてきました。

【ブロックピリオダイゼーション】という手法が、様々な競技者にとって効果的であるが、他の手法と比べて明らかに優れているとは現時点では言えないようです。

詳細なハウツーとしてでは無く、大きな枠組みとしてのブロックピリオダイゼーションを理解することが個人的にはオススメ。

どれか1つのピリオダイゼーション手法に傾倒するのではなく、様々な状況下において「適切に使い分ける」ことが出来たら良いな。


また、トレーニング計画に対する手法(ピリオダイゼーション)を歴史的に学ぶことで、それぞれのメリット・デメリットが見えてきたようにも思います。

ピリオダイゼーションの手法を比較した研究は、ほとんどが短期間(数週間)の介入によるものです。そのため、単一の生理学的な要素に対して効果的な手法は比較され明らかになってきているように思います。

しかし一方で、競技パフォーマンスに対して効果的であるか?という点は、一貫した結果が出てきていないようす。

さらに数年単位でトップアスリートへの道を辿るための手法に当てはめていくことは困難かと。

そういった意味ではオリンピックでの最高パフォーマンスを目指す4年計画のような長期で最適だと考えられるトレーニング計画の配分なんかはもっと分かっていないかと。研究などのように体系的に明らかにしていくことは難しいのかもしれませんが、今後に期待ですね。

年に1回か2回くらい高いパフォーマンスを発揮する場合と、年に6回くらい高いパフォーマンスを発揮することの違い

どのようなトレーニング周期(ピリオダイゼーション)を取り入れてスケジュールを組んでいるか?というお話になります。年に1回だけピークが来るようにするのか?小さなピークの山を作りながらトレーニングを積んでいくのか?腕が試されているところなのかもしれません。

どちらのトレーニング計画を採用しても良いのでしょうが、選手の「お気持ち」を考えると…年1回だけの大きなピークというのは何だかなぁ。という気がしています。そのスポーツ自体を楽しめるのか?気になっちゃうな。

私の師は以前こう言ってました「年1回のピークなんてギャンブルになっちゃうだろ~。それよりも平均点あげてかなきゃレースがつまらん」

トレーニング計画について今のところ言えること

継続的に様々なトレーニング刺激を取り入れ、少しずつ高い負荷(刺激)を与えていくことによって成長する。

という点については確認ができていると言って良いでしょう。

つまり、特異性と過負荷と漸増性が大切であるということ。


胸張って言えることはこれくらいでしょうか…。

結局、トレーニングの原理および原則で言われていることに回帰してきました。

競技の結果を左右するのは生理学的なトレーニングだけではなく、技術や心理面などの様々な要因があります。

ですので競技結果とトレーニングプロセスを固有名詞で結び付けることは困難です。ブロックピリオダイゼーションが良いとか、ポラライズドが良いとか…。

マクロな視点では現象を比較するのが難しいんだよねきっと。こういったトレーニング法の比較研究で見るべきはミクロ(マイクロ)な視点なんだなと再認識させられました。

競技力向上を目指した現場の人間としては、研究や経験によって得られた知見を活かして、より良いと思えることを採用していきたいものですねぇ~。

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