女性アスリートの生理に関するネット記事を目にする機会が増えたように感じています。
ですが、スポーツと生理に関する情報を目にする場はあまり無いように思います。
今記事では、スポーツ指導者がちょっぴり知っておいても良いんじゃないかな?という内容について、学術論文等を参考にして基礎的な部分を書いてみようと思い立ってまとめています。
また、記事内では正常月経に関する運動パフォーマンスについて書いていきます。月経異常や何らかの症状についての医療知識などに関しては触れていきません。
スポーツ指導者が、身体の基礎知識を知ることで、相手の話を「傾聴する」という行動を取りやすくなると考えられます。
選手が何らかの症状を訴える場合は、やみくもに不安を煽るようなことなく、医療機関への受診を促すようにしましょう。
月経(生理)とは
子宮内膜が剥がれ落ち、それに伴い出血が起きる生理的な現象を指します。
おおよそ13歳ころから45歳ころまで継続されます。
妊娠・ホルモン薬・体調不良などによって月経周期が中断される場合もあります。
月経の周期について
月経周期とは、出血が始まった日を1日目としています。周期は約28日間とされることが多いようです。
「正常月経」とは、月経周期が定期的に発生し、21日~35日続く場合を指します。
月経周期の3段階
月経周期は、ホルモンによって調整されていると定義されています。
ホルモンの分泌によって、月経周期は大きく3段階に分けられます。
・卵胞期(Follicular phase)
・排卵期(Ovulatory phase)
・黄体期(Luteal phase)
月経周期と主に関与しているホルモンは4つ
エストロゲン(Estrogen)
プロゲステロン(Progesterone)
卵胞刺激ホルモン(Follicle Stimulating hormone)
黄体形成ホルモン(Luteinizing hormone)
月経周期の6段階
これらのホルモンの分泌濃度を、十分に区別するためには3段階だけでは説明が困難だと考えられ、6段階で表現される場合もあります。
①卵胞期初期(約5日間)
関与するホルモンはすべて低値で安定していることが特徴的です。
②卵胞期後期(約7日間)
エストロゲンの増加が特徴的です。その後、黄体形成ホルモンが徐々に増加していく。
③排卵期(約3日間)
黄体形成ホルモンが急激に上昇し、プロゲステロンはわずかに増加し、エストロゲンは徐々に減少していきます。
④黄体期初期(約4日間)
プロゲステロンが徐々に増加し、エストロゲンは排卵期よりもさらに減少していきます。
⑤黄体期中期(約4日間)
プロゲステロンが増加のピークとなり、エストロゲンは若干の増加をしていきます。
⑥黄体期後期(約5日間)
プロゲステロン・エストロゲンともに減少をしていきます。
月経周期と運動パフォーマンスについて
✅運動パフォーマンスは、月経周期によって変化しないと結論づけられている研究論文が多く、さらなる研究が必要であると言われています。
運動パフォーマンスが「低下」すると考えられる月経周期
✔筋力と有酸素性パフォーマンスは、”黄体期後期”に低下することが報告されています。
✔無酸素性パフォーマンスは、”卵胞期後期”に低下することが報告されています。
✔自覚的な運動パフォーマンスは、”黄体期後期”に自覚することが報告されています。
運動パフォーマンスが「向上」すると考えられる月経周期
✔無酸素性と筋力系のパフォーマンスは、”排卵期”に向上していることが報告されています。
✔有酸素性パフォーマンスは、”卵胞期”に向上していることが報告されています。
※しかし、いずれのパフォーマンスにおいても、相反する結果が報告されているので今後の研究報告をきちんと勉強していきたいと思います。
ホルモンと運動パフォーマンス
なぜ、月経周期によって運動パフォーマンスが変化すると考えられているのか?
それは、ホルモン分泌の変動による作用が影響すると言われています。
エストロゲンの運動パフォーマンスへの作用
エストロゲンは、神経系の興奮を高める作用があると考えられています。神経興奮により、力の発揮が大きくなる可能性があります。
他には、脂肪酸の酸化を促進する作用があります。
プロゲステロンの運動パフォーマンスへの作用
プロゲステロンは、神経系の興奮を抑制する作用があると考えられています。神経興奮の抑制により、力の発揮が小さくなる可能性があります。
他には、脂肪酸の酸化を抑制する作用があると考えられています。
また、体温を上昇させる作用があることも確認されています。
テストステロンの分泌増加と運動パフォーマンスへの作用
月経周期の変動に関与する4つのホルモン以外にも、テストステロンというホルモンの増加が”排卵期”において確認されています。
テストステロンは、筋肉の同化作用が代表的であり、運動においては高強度時のパフォーマンスを向上させると考えられます。
月経周期と体温変動
“黄体期”に、体温の上昇がみられることが多くあります。
主にプロゲステロン分泌が増加することによるものだと考えられています。
月経周期と体組成
体脂肪や体水分量などは、月経周期によって変動しない。という結論の報告は多いようです。
しかし一方で、”黄体期”に体重および体水分量の増加が見られるという報告もあります。
プロゲステロン分泌の増加によって、脂肪酸の酸化を抑制する作用や、食欲の上昇などによるものだと考えられます。
参考文献
題名:The Impact of Menstrual Cycle Phase on Athletes’ Performance: A Narrative Review
著者:Mikaeli Anne Carmichaelら
公開日:2021年2月9日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC7916245/
題名:The Effects of Menstrual Cycle Phase on Exercise Performance in Eumenorrheic Women: A Systematic Review and Meta-Analysis
著者:Kelly Lee McNultyら
公開日:2020年7月13日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC7497427/
題名:Real-life insights on menstrual cycles and ovulation using big data
著者:I Soumpasisら
公開日:2020年4月16日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC7164578/
私見まとめ
現状では、「月経周期が運動パフォーマンスに大きな影響を与えない」「さらなる研究調査が必要である」という結論で述べられている論文が多いようです。
しかし、周期ごとに見ていくと運動パフォーマンスへの影響に変動があった。という報告もありました。
ですので、個々人の体調の変化を観察していくしかありません。何らかの症状や問題を抱えている場合は、医療機関への受診を促すようにしましょう。
医療関係の資格を持たないスポーツ指導者が、症状を聞いて診断したり、ましてや治療行為に及ぼうなどという勘違いを起こさないように注意喚起もしておきたいと思います。
冒頭でも書きましたが、スポーツ指導者が、身体の基礎知識を知ることで、相手の話を「傾聴する」という行動を取りやすくなると考えます。
想定した読者としては、アスリート指導に関わり始めたばかりの頃の過去の自分に向けたような内容であります。
あまり実践的・現場的な内容ではありませんが、「月経」についての基礎知識として誰かの”学びのきっかけ”くらいになったら良いなと思います。