水泳肩(スイマーズショルダー)という言葉をご存知でしょうか?
英語では、Swimmer’s Shoulderと書きます。
水泳運動によって引き起こされた「肩の痛み」に対して使われる言葉です。
水泳選手で発生する「故障」の中でも特に多いのが肩の痛みです。今記事では、予防をするためのエクササイズを紹介しています。スイム練習前に短時間で良いので取り組む「習慣」を。
水泳肩(スイマーズショルダー)の説明
スイマーズショルダーとは、水泳選手の【肩の痛み】に対して用いられる言葉です。
KennedyさんとHawkinsさんが、1974年に発表した論文中に用いられた言葉が始まりだとされています。
腕を挙上する際に発生する「棘上筋腱のインピンジメント」を
【スイマーズショルダー】と説明したとのことです。
現在では、上記のインピンジメント症候群の他にも、多様な病態であることが分かっています。
水泳肩の原因(病因)
水泳肩は、多くの病因があるとされています。
ここでは、大きく分けて2つの解説をします。
①肩の酷使(使い過ぎ)
水泳選手は、1回の練習で3000m泳ぐとすると
クロール泳の場合は、片方の肩を「600」回転することになります。
※25mあたりストロークカウント10回の場合。
1回3000mの練習を週に5回実施すれば、「3000」回転になります。
肩の酷使によって、周囲の筋肉が疲労して「関節の安定性が低下」することが分かっています。
②肩甲骨の動作異常
・大胸筋&小胸筋のストレッチ性が低下している
・前鋸筋の活動が低下している
・回旋筋腱板(ローテーターカフ)の収縮が低下している
・上僧帽筋が収縮し過ぎる
・肩甲骨(上方回旋)活動の減少
・肩甲骨(外転)活動の減少
以上のようなことが、肩の痛みへと繋がっていると指摘されています。
上記で挙げた事象以外にも複数の問題点があります。
肩甲骨の運動異常と、肩インピンジメント症候群の関与が分かっています。
肩の痛みが出現しやすい徴候(平均15歳の水泳選手で調査)
腕「水平伸展」可動域が39°以下の場合、
— 山﨑裕太 (@hari_sports_YY) October 31, 2019
スイマーズショルダー(肩痛)が発生しやすい。https://t.co/IiChtBSRBD
①広背筋&前鋸筋を鍛える
②肩甲骨の上方回旋&外転
③上僧帽筋に頼りすぎない腕挙上
これらを理解して取り組むことで、
泳動作による肩の痛み予防を促進すると考えております。 pic.twitter.com/8mnRlDH9US
水泳肩の予防&改善方法
まず、大前提として
「痛みがある場合は無理に動かさない」ということが必須です。まずは医療機関を受診し、診断を受けましょう。
その上で、痛くない範囲での関節運動を進めていってください。
①広背筋を働かせる
スイマーズショルダーの病因で述べた【運動異常】の中に、
「胸部のストレッチ性低下」があります。
胸筋の働きと拮抗する筋肉である「広背筋」の働きを活性化させることにより
胸筋のストレッチ性と筋弛緩を狙いとした運動です。
②前鋸筋を働かせる
肩インピンジメント症候群を含めた肩の痛みを抱える人の多くが「前鋸筋の活性不足」が見られます。
こちらのトレーニングでは、【肩甲骨を外転させる意識】を持ちながら取り組んでみてください。
肩が上がらない(すくまない)ように注意しましょう。
③肩甲骨の動きを理解する
スイマーズショルダーを抱える選手の多くが、
腕を頭よりも高く上げることによる痛みがあります。
水泳動作中の「キャッチ」の際に、
肩甲骨の上方回旋が不足している可能性もあります。
こちらのエクササイズでは、上僧帽筋が収縮しないよう(肩が上がらない)に肘を押し出す意識をしましょう。
当チームで実施している「肩のウォーミングアップ」
参考論文
Scapular Dyskinesia, the forgotten culprit of shoulder pain and how to rehabilitate
著者:Andreas Christos Panagiotopoulosら
公開日:2019年8月20日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6701878/
Rationale and methods of a randomized clinical trial to compare specific exercise programs versus home exercises in patients with subacromial impingement syndrome
著者:Héctor Gutiérrez-Espinozaら
公開日:2019年7月26日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6709276/
Low Range of Shoulders Horizontal Abduction Predisposes for Shoulder Pain in Competitive Young Swimmers
著者:Antonio Cejudoら
公開日:2019年3月6日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6414446/
The Swimmer’s Shoulder: Multi-directional Instability
著者:Ivan De Martinoら
公開日:2018年4月20日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5970120/
Biomechanical Considerations in the Competitive Swimmer’s Shoulder
著者:Scott A. Heinleinら
公開日:2010年11月
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3438875/