心拍数というのは皆さんにとって聞いたことのあるワードかと思います。一般的には、1分間の脈拍数を数値化したものです。
ですが、血中乳酸濃度というワードは馴染みが無いかもしれません。
今回の記事では、アスリートや指導者向けに
これら2つの関係性について現段階で分かっていることを考察してみます。
まず、乳酸について
No.69 運動のエネルギー供給システムについて記事中で紹介した「解糖系」というシステムが働くと「乳酸」という物質が作られます。
※解糖系:ATPを作り出すために、体内に貯蔵されている糖を利用します。
運動の努力度(強度)が高くなると、解糖系システムの稼働する割合も高くなります。
そうすると、より多くの「乳酸」が作り出されるというわけです。
その「乳酸」が多く作り出される【境界線】のようなものがあります。
「乳酸閾値(Lactate Threshold)」と呼ばれています。英語の頭文字をとって「LT値」とも表記されます。
LT値は、最大努力(瞬発的運動)よりも少し低い強度での運動となります。
この乳酸閾値(LT値)は、どのように計測するのでしょうか?
解糖系が稼働するような筋肉活動で作り出された「乳酸」は、血管内へ運ばれて血液とともに全身へ流れます。
ですので、LT値を計測する際は
耳たぶや指先の毛細血管から血を採取します。その少量の血液を計測器で見る。という作業が一般的な「血中乳酸の測定」となります。(2019年10月現在)
血中乳酸値と心拍数の関係
この「血中乳酸値」を計測するという行為は、非常にメンドクサイです。
なので、血を出さなくても「乳酸値」が分かる方法は何か無いか。ということで【心拍数】を乳酸値と照らし合わせて、運動強度の目安とする方法があります。
多くの水泳チームでも、心拍数から乳酸値を推定するという手段を用いています。
乳酸値と心拍数は、どの程度の関連があるものなのでしょうか。
というのを述べるのが今記事での目的でした。
やっと辿り着きました。
では、早速結論です…。
結論
血中乳酸濃度と心拍数との相関関係は認められていない。
というのが私が調査した範囲での結論です。私が調査した範囲というのは、下記にあります「参考論文」欄を見ていただけたらと思います。
この2つの数値に相関関係が認められていないからと言って、それぞれの数値がムダなわけではありません。
例えば、持久走のような運動では
ランニング速度と乳酸濃度との、高い相関関係があると認められています。
このように、それぞれの数値を
トレーニング効果の【指標】として、定期的に観察することは有効です。
(3ヶ月前)50mバタフライ泳:30秒でHR180/分
(現在)50mバタフライ泳:30秒でHR150/分
上記のような場合、
持久的な能力が向上した。という評価が可能です。
おまけ)当チームでの心拍数利用方法
①30秒〜70秒程度の繰り返し運動で、タイムと心拍数の定期観察
⇨Aerobic(好気性)能力を観察します。
②高強度トレーニング後に、心拍数(120〜140/分)程度の持久的インターバル運動を約10分間実施します。
⇨Anaerobic(嫌気性)能力の向上を図るため。
③スプリントトレーニングの直前に、パフォーマンスが高まる心拍数まで調整します。
⇨いくつかの研究から(HR:90〜110/分)の状態でスプリント運動に臨むと良い結果が得られるとされている。
参考論文
A review of the concept of the heart rate deflection point.
著者:Bodner MEら
公開日:2000年7月
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10907756/
Anaerobic Threshold: Its Concept and Role in Endurance Sport
著者:Asok Kumar Ghosh
公開日:2004年1月
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3438148/
High-intensity interval training, solutions to the programming puzzle. Part II: anaerobic energy, neuromuscular load and practical applications.
著者:Buchheit Mら
公開日:2013年10月
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23832851/
How to Regulate the Acute Physiological Response to “Aerobic” High-Intensity Interval Exercise
著者:Gerhard Tschakertら
公開日:2015年1月27日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4306779/
Oxygen Delivery and Muscle Deoxygenation during Continuous, Long- and Short-Interval Exercise.
著者:Zafeiridis Aら
公開日:2015年11月
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26140688/
Effects of work-interval duration and sport specificity on blood lactate concentration, heart rate and perceptual responses during high intensity interval training
著者:Diego Warr-di Pieroら
公開日:2018年7月16日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6047801/