「ジュニア期にめっちゃ速かった子は、大人になって伸びないよ」
こんなことを聞いたことがあります。本当なのでしょうか?
幼少期(ジュニア期)から1つのスポーツ競技の成功や勝利を獲得するためには、より早い時期により多くの専門的な練習に取り組む必要があると語られることが多くあるように思います。
これはスポーツの早期専門化と呼ばれています。早期専門化によって、ケガや故障といった肉体的な問題が多く指摘されています。さらには、バーンアウトといった精神的な問題との関連も示唆されています。
今記事では、競技パフォーマンスを長期にわたって向上させ続ける方法について述べられている文献を紹介していきたいと思います。
読者の皆さんそれぞれのチームでの活動に少しでも役立ったり参考になれば嬉しいです。
ジュニア期と成年期でそれぞれ活躍している選手の特徴や傾向はあるのか?
ジュニア期と成年期でそれぞれ競技レベルの高い選手の練習量や取り組む時期を調査したメタ分析論文↓
✅ジュニア期の成功は、メイン競技に取り組むのがより早く、その他のスポーツには取り組まないことによって達成される傾向が示唆されました。
✅一方で、成年期での成功は、ジュニア期に複数のスポーツ活動に参加し、メイン競技に取り組むのは比較的遅いことによって達成される傾向が示唆されました。
上記のような傾向が認知されてきて、スポーツの早期専門化による課題を克服するべく、長期的にアスリートのパフォーマンスを育成・向上させていこうとする試みが注目されてきています。
LTADモデル
LTAD(Long-Term Athlete Development)とは、「長期的なアスリート育成」と日本語訳されます。
トップアスリートも含む全てのスポーツ参加者の潜在能力を発揮できるようにすることが目的とされる。
幼児期から成人期への期間、7つのステージが設けられている↓
1.Active Start(運動に対して積極的に姿勢を身に付ける段階)
2.Fundamentals(走る跳ぶ投げるなどの基本的な運動を楽しく身に付ける段階)
3.Learn to train(様々なスポーツスキルを身に付ける段階)
4.Train to Train(有酸素的運動や筋力向上トレーニングの基礎を導入する段階)
5.Train to compete(競技会に出場できるだけの技術や体力を向上させるための段階)
6.Train to win(様々なパフォーマンスを向上させていく段階)
7.Active for Life(運動やスポーツ活動を生涯現役へ)
(I Balyi, R Way, C Higgs:2013)
YPDモデル
YPD(Youth Physical Development)とは、「青少年の身体能力育成」と日本語訳されます。
YPDモデルは、従来のLTADモデル(I Balyi, A Hamilton:2004)をさらに発展させるための新しい代替モデルとして発表されました。
幼児期(2歳)から成人期(21歳以上)までの運動能力育成を包括するモデルとして紹介されています。
Fundamental Movement Skills(基本的動作)、Sport Specific Skills(スポーツ特化スキル)、Mobility(可動性)、Agility(敏捷性)、Speed(速さ)、Power(パワー)、Strength(筋力)、Hypertrophy(筋肥大)、Endurance(持久力)など。
これらの身体能力要素に対するトレーニングを、いつ・どのような配分で取り組んでいくべきか?という計画を示してくれています。性別・成熟度・トレーニング歴などを個別に評価してYPDモデルを取り入れていくべきであると述べられています。
(Lloyd, Rhodri S and Oliver, Jon L:2012)
ポルトガル水泳連盟による「アスリート育成」資料
LTADモデルを基に、ポルトガル水泳連盟としての育成スケジュール指針が書かれているようです。
(AJ Silvaら:2016) (Mário J. Costaら:2021)
日本の水泳界にもあるのかな?
私見まとめ
どの国でも、アスリートの競技パフォーマンスについて、よりよい育成方法を模索し続けているのだなというのが分かります。
やはり、スポーツの早期専門化は様々な国や競技において課題の一つとなっているようす。
「ジュニア期に成功するのがダメ!」という表面的な理解をして分かったつもりになるのではなく、傾向を認識し、ポジティブに楽しく取り組んでいきたいところです。
けれど、ジュニア期でも成年期でも、それぞれの成功や勝利を目指していきたいよね。
成年期での成功を目指したLTADモデルでもYPDモデルでも、縦断的な研究は十分には実施されておらず、まだまだ不明瞭な部分は多くあります。
しかし、こういったガイドライン的な育成の指標を認識しておくのは重要だと感じます。やりながら改善していけばよいのです。
どの年齢層でも「技術」の向上を求めていこう
技術を向上させるということは、つまり身体を上手に扱うということになります。
ジュニア期でも成年期でも、それぞれの身体をコントロールする能力は常に高めていくようにしていきたいね。
有酸素性持久力の向上はそれなりに大切だけどジュニア期の後半で良いんじゃないか
ジュニア期では、とにかく練習量でガンガン押す。みたいな感じだと、それなりに最適化するから伸びるんだよね。
だけどその時期に、技術や俊敏性や筋力といった要素にも手をつけておきたい。引き出しが多いってのは成年期へ移行した時にきっと役に立つよ。
子ども(13歳前後)の頃に「骨折のリスク」が高くなる特徴を調査した研究があります。
その特徴は「筋力が低くて有酸素性持久力が高い」ということでした。(E M Clarkら:2011)
ケガや故障の予防という観点からも、泳いでばっかりいないで色んなこと取り入れてみよう。
恒例の100m×20本データ取りは何のデータを取っているのか?
日本水泳界には、とある時期が来ると合宿で「100m×20本」全力泳でのデータ取り。というメニューがお決まりです。
スプリント選手もクロール以外の選手も同じことをやります。というかやらされます。
この練習で収集したデータは、何を見ているのか?また、何に役立っているのか?そういったデータとしての解釈について誰も分からないまま取り組んでいるのが現状かと。
いっそのこと「データ取り」なんて言わずに、「根性つけるためだ!」という言い方をしてくださったら良いのにな。なんて考えちゃうこともあります。
ちなみに、100m自由形レースは「50m×4本(サイクル約2分)」と相関が認められていることが分かっています。
(Elissavet Terziら:2021)
誰のための100m×20本なのか?
私も含めて、いろいろと考えていきたいものです。
スイミングの他に取り組んでいる競技がない場合はウエイトリフティングを目指した筋トレを取り入れていこう
技術を高めるために身体操作を向上させようということを述べました。
しかし、どんなに身体操作が上手くなっても、筋力が伴っていなければ競技スポーツでの「技術向上」は難しい領域があります。負荷のかかる局面や体力の消耗している状態でも「技術」を発揮しなくてはいけません。
長期的にさらなるハイパフォーマンスを目指すなら筋力向上とも向き合っていこうね。
そのためには、スナッチやクリーンといったウエイトリフティング種目を目指してみよう。
ウエイトリフティング種目を目指す過程で、その動作が実践できるようになるためにたくさんのエクササイズに出会うことになります。
なので、水泳指導者はトレーニングコーチを仲間に取り入れるか、ご自身が実践しながら学んでいくかをオススメしたいと思います。
ほとんどのスポーツ現場では指標も何も無い状態で進めているのも現状です。各コーチや指導者の経験則にだけ頼っている状態。これではほとんどがギャンブルみたいなものかと。
育成モデルがあるからといって、全員がトップレベルへ辿り着くわけでは無いですが、知見や経験の蓄積は今後の発展にとっても大切にしていきたいものです。