No.94の記事では、肩痛を抱える人を対象としたエクササイズの比較実験論文を紹介しました。
◎前鋸筋を活性化させる「ウォールスライド」
注意点としては、僧帽筋の上部繊維をなるべく働かせないことと私見を述べました。さらに、水泳選手で胸部脊柱の動きが苦手な人に対するウォールスライドの動画も紹介しています。お試しあれ。
No.95の記事では、「スリング腕立て伏せ」の筋電図(EMG)を観察した論文を紹介しました。
通常の腕立て伏せと比べて、上腕と胴体前面の筋電図が強く反応していました。
その結果から、スリングでの腕立て伏せは強度が高いと言えるでしょう。
今回の記事でも、No.95と同様に「スリング腕立て伏せ」の筋電図(EMG)を観察した研究論文を紹介します。
前回の研究と異なる点は、筋電図で観察した部位の筋肉が違うことです。
(前回)大胸筋、広背筋、上腕三頭筋、上腕二頭筋、腹直筋、外腹斜筋、内斜筋、脊柱起立筋
(今回)僧帽筋上部繊維・三角筋前部繊維・前鋸筋
論文紹介
Comparison of Upper Trapezius, Anterior Deltoid, and Serratus Anterior Muscle Activity during Push-up plus Exercise on Slings and a Stable Surface
著者:So Young Jeongら
公開日:2014年6月30日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4085225/
内容:slingでの不安定な状態と、stable(安定した)状態での「腕立て伏せプラス」比較
※push-up plus(腕立て伏せプラス)とは?
腕立て伏せ運動で腕が伸び切る際に「肩甲骨外転」動作を加えて胸椎を屈曲するエクササイズを指します。
主に前鋸筋の働きを狙いとして実施することが多いです。
参加者)
28名(男性10名/女性18名)の大学生が実験に参加。平均年齢は23.6歳
外科的・神経学的な疾患を抱える人は含まれませんでした。
EMG測定部位)
僧帽筋上部繊維・三角筋前部繊維・前鋸筋
運動方法)
①腕立て伏せ姿勢を取る
②手と足は肩幅で開き
③肩甲骨の外転運動(scapular protraction)
④その状態を保ち、片足を上げる
⑤5秒間キープ
以上の運動手順を、スリングと安定した地面での2パターンで実施されました。
どちらも地面から高さ30cmで行われます。
結果:僧帽筋上部・三角筋前部・前鋸筋で筋肉活動が有意に増加しました。
私見まとめ
今回ご紹介した論文中の内容は、スリングを使用した「腕立て伏せプラス」というエクササイズ効果を調査することが目的でした。
結果としては、
僧帽筋上部・三角筋前部・前鋸筋の筋電図(EMG)から筋活動の有意な増加が見られました。
この3つの筋肉は、肩甲骨の運動に強く関与しています。
肩の痛みを抱えている人の特徴として、
「僧帽筋の上部繊維」が過度に働いてしまうという傾向が見られます。
そして、肩甲骨の上方回旋運動がスムーズにいかない。さらに、前鋸筋の活動が減少している。こういった点が見られます。
「スリング腕立て伏せプラス」というエクササイズでは、僧帽筋上部繊維の活動が明らかに増加していました。
この現象をどのように捉えてトレーニング指導の現場に活かすか。
肩痛を抱える選手にとってはデメリットであると考えられます。
少し話は飛躍しますが…
「体幹トレーニング」と称されて実施する運動で肩痛を誘発させているものがあるかも知れません。
まあ、そんなこと言い出したら
あらゆるエクササイズは痛みと隣り合わせとも考えられますね。
※野球のピッチャーでは、スクワット運動のときにバーベルを「担ぐ」動作を避ける人もいます。肩の筋肉を過度にストレッチさせないようにしているようです。
トレーニングの【狙い】を定めた上で、実施する運動のデメリットも認識していきたいものです。