運動に関する能力が、どのくらい【遺伝】するのか?
スポーツ指導者としても興味深い分野です。
スポーツ分野では、
骨格筋において見られる「ACTN3」というタンパク質が注目されています。
今回の記事では、運動能力にも関わる「ACTN3遺伝子」について取り上げてみたいと思います。
みんなと同じことをしていても同じような成果が出ない。トレーニングにおける取り組み方を考える際のキッカケになるかもしれません。
ACTN3遺伝子型について
・3種類(RR型・RX型・XX型)の遺伝子型に分類されます。
・ACTN3遺伝子型は、
骨格筋のタイプⅡ繊維(速筋)でのみ見られる「アルファ-アクチニン-3」というタンパク質の発現に関わる遺伝子であります。
・XX型では、「アルファ-アクチニン-3」の発現が見られない遺伝子型であるとされています。
ACTN3遺伝子型と筋肉繊維タイプ
・タイプⅡx繊維の割合は「RR型とRX型」のほうが多く見られる。
(2007:Vincent Bら)
・「XX型」では「RR型」と比較して、エキセントリックトレーニング後の筋肉ダメージが大きかった。
・「XX型」の人は、トレーニング後の免疫低下・筋肉の損傷・筋肉の分解といったダメージに注意したい。
(2009:Pimenta EMら)
私見
筋肉繊維タイプでは、
・RR型・RX型を持つ人が【速筋タイプ】
・XX型を持つ人が【遅筋タイプ】
※正確には、ACTN3タンパク質が見られるのはタイプⅡ繊維ですので「相関関係がある」程度にしか分かっていないようです。
このように考えられます。
筋繊維のタイプ割合は、かなりの部分で遺伝的に決めっていると言われます。
筋肉タイプによっては
スポーツ競技の選択・トレーニング方法の取り組みなどで適正が出てくるでしょう。
競技力向上において、自分の筋肉タイプを知っておく必要性を感じます。
ACTN3遺伝子型と運動パフォーマンス
・陸上短距離走において、オリンピック大会の予選を突破するレベルのタイムを持つ選手たちに「XX型」であるケースは見られませんでした。
(2016:Ioannis D. Papadimitriouら)
・持久力(有酸素性能力)のあるアスリートでは「XX型」を持つ傾向が高かった。
(2003:Nan Yangら)
・「RR型」はパワー活動に優れた相関関係が見られる。「XX型」は持久力活動に優れている可能性が考えられる。
(2015:Broos Sら)
しかし、一方で競技パフォーマンスと「ACTN3遺伝子型との関連が見られなかった」とされる研究もあります↓
陸上競技(1500m/3000m/10000m/マラソン)アスリートを対象にした研究では、
・世界記録の20%以内の競技者においても「ACTN3遺伝子型による関連性は認められなかった」
(2018:Ioannis D. Papadimitriouら)
※世界記録の20%というと、エリートアスリートと呼べないのではないか?という疑問もあります。
その他にも、競技結果と遺伝子型との関連性は見られなかったとされる論文もありましたが…。
ACTN3遺伝子型と負傷発生率との関連性①
イタリアのプロサッカー選手(男性169名)を対象に調査。
・XX型の選手は、RR型の選手よりも「負傷発生率」と「重症度」が高かった。
・RX型の選手は、RR型の選手よりも「負傷発生率」が高かった。
題名:ACTN3 R577X Polymorphism Is Associated With the Incidence and Severity of Injuries in Professional Football Players.
著者:Massidda Mら
公開日:2019年1月29日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28817413/
ACTN3遺伝子型と負傷発生率との関連性②
139名のアマチュアマラソンランナーが実験に参加。
持久的トレーニングとマラソン競技に関連する「負傷」を調査しました。
(筋肉の負傷/腱の負傷/靭帯の負傷/骨の負傷/神経の負傷に分類)
・RR型の選手は、XX型の選手よりも全体的な「負傷発生率」と「負傷罹患率」が高かった。
・XX型の選手は、RR型の選手よりも突発的な「筋肉の負傷」が有意に多かった。
題名:Influence of the ACTN3 R577X genotype on the injury epidemiology of marathon runners
著者:Victor Morenoら
公開日:2020年1月28日
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6986710/
ACTN3遺伝子型とトレーニング方法
RR型・RX型
・(高負荷/低回数)トレーニングによって筋力向上しやすく、筋肉損傷に対する耐性も高い傾向が見られる。
(2015:Naoki Kikuchiら)
・最大酸素摂取量(VO2max)向上を狙う場合、HITなどの高強度トレーニングを優先するべきである。
(2017:Craig Pickeringら)
XX型
・低強度の筋力(レジスタンス)トレーニングによって有酸素性能力向上が相関するように見られた。
(2016:N Jonesら)
私見
選手個人にとって、ミスマッチのトレーニング方法であっても能力向上効果は見られます。
ですが、マッチしたトレーニングであった場合のほうが効果は大きいでしょう。
今一度、立ち止まってトレーニング内容を見つめ直していきたいトコロです。
競技の直前まで、筋力(レジスタンス)トレーニングを実施したほうが良い。
というのがストレングス指導者の間では常識になりつつあります。
そこでも、【個別性】という遺伝的な視点も抜け落ちないようにしていきたいものです。
RR型を持つ人と
XX型を持つ人とでは、
運動後のダメージ反応が異なることが分かっています。
・エキセントリックトレーニング後の(筋肉炎症・筋肉損傷・ホルモン)反応が、XX型で数値が高かった。
(2012:Pimenta EMら)
現在はまだ、簡単に数値化が出来ませんが
指導者としても選手と一緒に「トライ&エラー」を繰り返して、トレーニングの精度を高めていきたいと思います。
私見まとめ
スポーツ指導者として、
選手たちの「持って生まれた【遺伝】について」どのように捉えるのか。
私は、トレーニングアプローチを準備する上での「事前情報の一部」という認識をしています。
遺伝子という分野が研究によって解明されつつある昨今。
スポーツに関わる人たちの価値観のようなものが問われているような気がします。
例えば、多くのスイミングスクールの場合
選手コースへ進級スカウトする際に「遺伝的な基準」があると言います。
家族や両親のスポーツ歴や身長・体格などを基準としているようです。
そういった、クラブの方針(特色)を知り
消費者の方々が各自どこでやるか選んでいけば良いでしょう。
わたし個人的には、
身体的に優れた遺伝的な性質などに関わらず
「強くなりたいぜー」って思っている人たちと一緒に頑張っていきたい。
たとえ、
身長や体格や遺伝などで劣っていたとしても、
【工夫して勝ちにいく】過程に楽しみ・やりがいを感じています。
(ACTN3)遺伝子検査キット
ちなみに私は、「RR型」でした。