スプリンターにとって、『テンポが上がらない』『最後までテンポを維持できない』
こんな課題に対するトレーニング方法として、抵抗(パラシュート)スイムというものがあります。
今記事では、抵抗(パラシュート)スイムについて考察していきたいと思います。
継続的に取り入れることで、どのような効果が期待できるのか?
ストローク技術的に、どのような点へのアプローチが可能なのか?
論文紹介
題名:The influence of an 11-week resisted swim training program on the inter-arm coordination in front crawl swimmers
著者:Ioannis Valkoumasら
公開日:2020年6月19日
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32552582/
論文結論:11週間(週4回)のトレーニング期間後、パラシュート着用群でタイム短縮が見られた。
✔抵抗(パラシュート)スイムトレーニングを実施したグループで、クロール50mのタイム短縮が見られた。
✔ 抵抗(パラシュート)スイムトレーニングを実施したグループで、 ストローク率(Stroke rate)の向上が見られた。
論文内容:女性ジュニアスイマーが実験に参加
<参加者>
・14名の女性水泳選手が実験に参加(年齢12~14歳、競技歴の平均は約4年)
<実験内容>
・11週間のトレーニング期間が設定された。
・期間の前後で、50m全力クロールを2本(壁プッシュスタート)測定した。
・2つのグループに分けられた
①抵抗(パラシュート)着用グループ
②抵抗(パラシュート)無しグループ
・週に4回のスプリント・トレーニングを実施
月曜:15m×6本×3セット(60秒サイクル/セットレスト5分)
火曜:25m×4本×2セット(90秒サイクル/セットレスト5分)
木曜:15m×6本×3セット(60秒サイクル/セットレスト5分)
金曜:25m×4本×2セット(90秒サイクル/セットレスト5分)
ストロークへの影響について
パラシュートを着用した全力クロールにより、推進力の大きなストローク動作を身につける可能性が示唆されていますhttps://t.co/F5HyLn6inN
— YY (@hari_sports_YY) December 22, 2020
パラシュートでの全力クロールの場合、キャッチアップで腕を回すのではなく「両腕がキャッチとフィニッシュで対になる」パターン(Superposition)になります pic.twitter.com/GqhyTpwcaF
パラシュートを着用した全力バタフライにより、推進力の大きなストローク動作を獲得する可能性が示唆されています。https://t.co/6f63GCwpvn
— YY (@hari_sports_YY) December 24, 2020
パラシュートの抗力によって、フィニッシュ及びリカバリー動作の時間が短くなり、相対的にキャッチ-プル動作が長くなるようです。 pic.twitter.com/3E0kzLAmfD
私見まとめ
今回紹介した研究論文では、11週間というトレーニング期間でした。
その期間の抵抗スイム(パラシュート)トレーニングによって、泳速度の向上が見られました。
泳速度が向上した要因は何か?
泳ぎの指標としては、
✅「ストローク長」の変化は見られなかった。
✅「ストローク率」の上昇が見られた。
この事実をどのように考えるか?
トレーニングによって向上する能力を、大きく2つ(ハードとソフト)に分けて考えてみます。
①ハードウェア(筋肉・筋肥大)
②ソフトウェア(神経・運動単位)
参考記事↓
No.135 ウエイトトレーニングを実施する意味について説明する際に用いる例え話【スポーツ選手と競技コーチへ】
抵抗(パラシュート)トレーニングによって、向上した能力を『ストローク率の向上』だと考えてみます。
ストローク率の向上を深堀してみる
ストローク率が向上したというのは、つまり、「1かき」の時間が短くなった・速く腕を回せるようになった。ということになります。
「1かき」の”どの部分”が速くなったのか?
✅クロールストローク局面は「4つ」に分類されます。
①エントリー&キャッチ(Entry & Catch)
②プル(Pull)
③プッシュ(Push)
④リカバリー(Recovery)
参考記事:No.173 【水泳】クロールにおける腕ストロークのコーディネーション【3種類】
✔抵抗(パラシュート)トレーニングを実施したグループは、推進力を生み出していない局面(①&④)にかかる時間が短縮されたと考えられます。
なぜ、ストローク率は向上し、ストローク長は伸びなかったのか?
仮定として、
ストローク長を「筋肉系」つまり『ハードウェア』
ストローク率を「神経系」つまり『ソフトウェア』
というように分類してみます。
11週間という期間の介入によって、
「神経系(ソフトウェア)」の適応は発生したが、
「筋肉系(ハードウェア)」の発達は明らかなほどに貢献しなかった。
このように考えることが出来ます。
つまり、ストローク長を向上させるには
別のアプローチまたは、もっと長期間の介入が必要であると言える。
“身体”という大きな枠で考えると、水泳練習も筋トレと同様であると捉えられるね。